福岡武道物語 外伝 「蛇に睨まれたカエル」

JUGEMテーマ:柔道


  私が大学生だった時、下宿していた部屋の向かいにE君という西南大の柔道部の後輩がいました。もう名前は忘れましたが、E君の柔道部の先輩(私からすると後輩)が彼の部屋によく遊びに来てました。その男がE君の部屋で夜中に騒ぐので、私は何度も彼を叱ったことがあります。
 
 この「先輩」は、かなり性質の悪い奴で、同輩たちからも、後輩たちからも嫌われていました。いつも癇癪を起こし、普段も乱捕り稽古をする時も、乱暴に振舞っていたからです。特に乱捕りの時に、乱暴に腕を振るので、怪我をさせられる後輩も何人かいたそうです。E君は、かなり悩んでいました。E君は、この先輩に何度も「先輩、大人になって下さい。」と言ったらしいのですが、彼の素行は直らなかったようでした。
 
 そんな事が一年ほど続きました。そして、年度が変わり、新入生たちが柔道部に入部してきました。その中に、T君と言う人がいました。巨漢ぞろいの柔道部の中では、それほど目立つ体格でもなく、とても温厚で誠実な人でしたが、このT君、かなりの柔道の使い手でした。
 
 彼が乱捕りしていると、いつどうやって投げたかわからないような投げ方で相手が吹っ飛ばされるとE君が私によく言ってました。
 
 そして、ある時、件の先輩とこのT君が組むことになります。皆が固唾を呑みながら、二人の乱捕り稽古を見守ります。それまで、いつものように乱暴に動いていた「先輩」は、T君と組んだ瞬間に、ピタッと動きが止まったそうです。いつもの乱暴な動きはナリを潜めT君のいいようにあしらわれて、キレイに投げられたとE君が教えてくれました。

 一度、このT君と居酒屋で飲んだ時、彼と腕相撲をしたことがあります。意外なことに、アッサリと私が勝ちました。この事で、私は逆に彼の凄みを感じました。彼は、人並み外れた腕力を使って相手を投げていたわけではなかったのです。

 これは、私の推測ですが、彼の柔道の師匠は、古流柔術の趣を残す昔の講道館柔道を学んだ人だったんだと思います。そうでなければ、体重100キロを超える連中を、それほど鮮やかに投げる事など出来るわけがないからです。
 
 件の「先輩」の方は、卒業後就職した後に、一度大学に訪ねてきたことがあります。当時は、まだ聴講生として西南で授業を受けていた私も彼に再会しました。彼は、憑き物が落ちたように穏やかな人になっていました。
 
 T君の方は、F銀に就職しました。F銀の西新町支店で口座を開いた時、彼に再会しました。彼の方は、ますます人間的な円熟味が増し、立派な銀行マンになっていました。
 
 鷹野龍一の武道ストーリーでした。



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