「悪夢」を書き終えて

JUGEMテーマ:自作小説

 ロバート・オブライエンと言う超かっこいいヒーローを生み出してしまい、現実の自分とのギャップに苦しむ鷹野龍一です。

 ここのところ、小説を完結させる事のみに心血を注いでおりました。

 先ほど、この小説を最終章まで読み返して、最終的な補正加筆を終えました。生み出した作品は子供のようなものです。大事に育てていかねばなりません。

 この小説の中の登場人物たちは、私が創造した人物たちではありますが、書き進んでいくうちに、それぞれの人物が、自由意志を持った生身の人間のように私の手を離れて動き始めました。

 作者として、一番意外だったのが、ニックです。あのキャラは、単純な悪役として、少し登場させて終る予定でした。それがあそこまで、露出が多くなるとは全く予想していませんでした。

 しかし、書いているうちに、何故この人は、あんな風になったんだろうと考えるようになり、生き直すチャンスと活躍の場を与えてやりたくなったのです。

 因みに、ニックにはモデルがいます。彼の人格の激変も、私がこの目で見たことをそのまま書いたものです。

 ビックリなさるかもしれませんが、この小説の中に出てくるエピソードは、その95%が、私自身の経験や、人から聞いた体験談が元になっています。つまり、作り話ではなく、実話なんですね。たとえば、ボブが喫茶店の外に出た時に、英秀からいきなり回し蹴りで攻撃される場面やボブの目の前で日本酒が沸騰するシーン、或いは、ボブが非常階段から地面に向ってダイブするシーンなどがそうです。


 この小説を書いているときの私は、まるで二重人格者か多重人格者のようでした。

 作者として、この小説を一回ずつ書いていきながら、添削のために再読するときは一読者になり切って「この話は、どうなっていくんだろう?早く次を読ませてくれー!」と言った気持ちで次回を待ち望んでいました。こういう意味では二重人格者ですね。

 様々な登場人物を描くときは、ビリー・ミリガンなみの多重人格者になってました。

 私にとっては、処女小説でしたが、大まかな筋を決めてはいたものの、最初に考えていたようなストーリー展開にはなりませんでした。自分が、頭で考えていた通りに、書いてしまうと展開がかなり不自然になるのがわかったからです。まるで、ジャズプレーヤーのように、即興で演奏しながら、リズムやメロディーの自然な流れに任せていく、そんな感じでした。

 
 読者の反応を知りたかったので、日本語の授業で、この小説を教材として使ってみました。生徒たちの反応は、作者としてもとても喜ばしいものでした。学期の終わり頃になって、やっとエンターテインメント性と教育的効果を調和させる事に成功したのです。こんな事なら、学期の最初から、自作の小説で授業していればよかったと少し後悔もしました。

 ある生徒は、「先生、早く次のコピーを下さい。」と言ってくれました。作者冥利に尽きるとは、このことです。

 ボブ・オブライエンが登場する物語をシリーズ化するかどうかは、未定ですが、もし私の心の中で、彼らが再び動き始めたら、シリーズ第二弾で、皆様にお目にかかる日が来るかもしれません。この物語を最後までお読み下さった読者の皆様、ここまで応援してくださり、本当にありがとうございました。まだまだ、寒い日が続くようです。何卒、ご自愛のほどを。

                                                     鷹野龍一


悪夢 第二章 最終回  ― 別れ

JUGEMテーマ:自作小説

  サーシャは、チェックインカウンターで、手続きを済ませ、スーツケースを預けた。後は、搭乗ゲートを通って、搭乗するだけだ。
 
 ゲートの前まで来ると、ボブは手荷物をサーシャに渡しながら言った。

 「イリーナたち、遅いね。搭乗手続きが始まる頃には、空港に着くって言ってたんだけど。」

 「え?イリーナたちは、来ないわよ。授業があるから。」

 「え?そんなばかな。李世明は、僕が『空港で人を送るのは苦手だから、行かない。』
 って言ったら、『私たちも授業があるけど、見送りに行くんだから、あなたも来ないとダメ
 よ。』って言ったんだよ。それに、イリーナも『サーシャは、あなたに見送って欲しいの
 よ。行かなきゃダメよ。私たちも、後から行くから。』って言って、僕に強引に欠席願い
 を提出させたんだ。」

 二人は、互いに見つめ合った。

 「・・・・・・」「・・・・・・」
 
 ボブが、口を開いた。

 「僕たち、担がれたみたいだね。」

 イリーナたちが、二人に妙な気を使ったようだ。それに、気がついたボブも、困ったような照れたようなボブ独特の笑みを浮かべている。少年のように、ややはにかんだボブの微笑を見て、サーシャは初めて、ボブの男性的な魅力に気がついた。

 どうして、今までこの人の事に気がつかなかったんだろう?分かれる直前になって、それに気がつくなんて、わたしホントにどうかしてるわ。

 「サーシャ、聞き忘れてたんだけど、カナダのどこに留学するんだい?」

 「え?あ、オンタリオ州よ。」

 「もしかして、マクマスター大学かい?」

 「そうよ。よく分かったわね。」

 「いや、何となく、そうじゃないかなって。叔父が、人文学部で教鞭を取ってるから、君
 の事を頼んでおくよ。面倒見のいい人だから、困った事があったら、何でも叔父に相談す
 るといいよ。叔父の連絡先は、メールで送るよ。」

 「ありがとう。あなたには、何から何まで、ホントにお世話になったわ。」

 「いいんだ。それじゃ、元気で。」

 そう言って、ボブは右手を差し出した。サーシャは、それを無視して、ボブの首に抱きついて、頬にキスをした。ボブを抱きしめたまま、サーシャは言った。

 「もっと早く、あなたの事を知りたかったわ。」

 「これで、よかったんだ。英秀との事があったからこそ、君は多くを学び、成長する事
 が出来たんだから。」

 サーシャは、ボブから体を離し、彼の目をジッと見つめて言った。

 「そうね。あなたの言う通りね。私たち、また会えるかしら?」

 「ああ、夏には、一度カナダに戻るつもりだ。その時、向こうで会おう。」

 「それまで、会えないのは、ちょっと寂しいわ。」

 "Well then, see you in our dreams !"
  (「じゃあ、夢の中で会おう!」)

 「間違ってるわよ、ボブ。最後の 's' は、要らないわ。 

 「そうだね。」

 "C U in our dream !"

 "C U in our dream !"

           


  
 
※この作品を、今は亡き父と母に捧げる。        


 
 


悪夢 第二章 21  ― 卒業試験

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 「それから、先生は、どんな指示をくれたの?」

 「後は、簡単だった。救いを求めている人の夢空間を見つけて、そこに気付かれないように
 入って行く。次に、その人が、自分の救助を受け入れる事が出来るかどうかを判断する。受
 け入れる事が可能だと判断できたら、適切な救助の時期を見計らう。最後に、救助の時期
 が来たら、助ける。

  最初に君の悪夢に入って行った時、君に不自然だと感じさせてしまったのは、僕が経験
 不足だったからに他ならない。僕も、まだ修行中なんだよ。」

 「そうだったの。じゃあ、熟練した人、たとえばノルブ・リンポチェやあなたの先生だったら、
 私に不自然だと感じさせずに夢の中に登場することができたって事?」

 「ああ、ノルブや僕の先生だったら、それが可能だろうね。夢の中で姿を変えることもできる
 からね。僕は、まだできないけど。」

 「ふーん、深いわね。ところで、それで、日本での夢見修行は、終わりになったの?」

 「うん。それで終わり。ただ最後に、テストがあったけどね。」

 「どんなテスト?」

 「自分の周囲にいる人の悩みや苦しみを夢見のテクニックを使って、解消する事。
  
  これが、テストだった。対象は自由に選んでよかったんで、先生の会社の女の
 子で、ボーイフレンドと結婚してもいいかどうかで悩んでた子を選んで、まずその
 女の子を助けた。次に、僕が英会話を教えていたの男の子を助けた。彼は、自分
 が将来どんな仕事をすべきかで悩んでいたんだ。

  二人とも、僕が夢に出て来て助けてくれたって、嬉しそうに話していたよ。勿論、
 ホントのことは二人には言わなかったけどね。言っても、どうせ信じないし。

  先生は、僕に気付かれないよう、変身して被救助者の夢空間の中に入り、僕の
 パーフォーマンスを見て合格点をくれた。」

 「フーーー!読み応えのある厚い本をやっと読み終えたって感じよ。」

 「辛苦了!(お疲れ様)」(笑)

 「それから、中国に来たんだ。」

 「そう。前から、老荘思想と中国武術をちゃんと勉強したかったからね。」

 「先生は、あなたが中国に行く事については、何も仰らなかったの?」

 「好きにすればいいよって。先生は、これからは、人の中に入って修行した方がいい
 って僕たちに告げてくれた。先生のメッセージ通りだった。今回、君を助ける事で、僕
 も多くを学んだからね。

  ところで、今何時?」

 「もうすぐ12時よ。」

 「もう搭乗手続きが、始まる頃だね。そろそろ行こうか。」

 「そうね。」

 二人は、荷物を持って、チェックインカウンターへと向かった。



  

悪夢 第二章 20  ― 救いようのない人々

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 「そうだけど、まず現実をしっかりと把握しとかないとね。救いようの無い人に関わって、貴 重な人生の時間を無駄にしないようにするためにね。」

 「そういう考えは、ちょっと冷たい感じがするわ。人を切り捨てるみたいで。」

 「ああ、僕も最初は、君と同じ様に考えてた。でも、僕の兄弟子が、その事で失敗したの
 を見て、先生の指示の意味を理解できたんだ。その先輩は、同情のあまり、救いようの無
 い人に一年以上関わって、結局、何も変わらず逆にその人に恨まれる事になってしまった
 んだ。」

 「ええ、どうして?」

 「『ちっとも良くならないじゃない。あんたのせいよ。あんたが、ちゃんと助けないからよ』
 って、言い始めたんだ。浅ましいもんだよ。酷い状況に陥ったのは、自分の落ち度なのに
 それを変えようとはせず、助けようとした人にまで当り散らす。そういう人は、救いようがな
 いよ。

  他にも、救いようの無い人はいる。あまりに辛い経験をしたせいで、心を閉じてしまった
 人たちだ。こういう人の夢空間は、厚い壁で囲まれている。接近すると中で苦しんでいる
 のが、よくわかるけど、壁を作ってるんで、どうしようもない。自我を守るために作り上げ
 た壁が逆に自分たちを苦境に陥れている事に、彼らは気付いていないんだ。」

 「人を救うって簡単じゃないのね。」

 「ああ、それに、お節介もよくない。頼まれもしないのに、こちらから助けようとしても、向こう
 に拒絶されるか、警戒される結果に終るだけだ。これは、現実でも夢空間でも同じ事だ
 よ。」

 「それは、私もそう思うわ。」

 「仮に、向こうが助けを求めていても、助ける事ができない場合もある。危機的状況でパニ
 ックに陥ってる場合がそうだ。こういう人に不用意に近づくと非常に危険だ。こちらまで、彼
 らの混乱に巻き込まれて、危険な状況に陥ってしまう。溺れている人を助けようと不用意に
 近づいていって、パニックっている彼らに抱きつかれて、自分も一緒に溺れてしまうのと同
 じ理屈だ。

  依存心が強過ぎる人もダメだ。自分でやるべき事をやらずに、全てこちらに救ってもら
 おうとするからだ。かなり無理をして、その人を助ける事はできるかもしれないけど、それ
 をしてしまったら、その人は、困った時はいつも人が助けてくれるという誤った考えを持っ
 てしまう。」

 「それで、穴から助け出してくれた時、私に自分でも這い上がる努力をするようにって言
 ったのね。」

 「そうだ。それから、反対に、独立心が強過ぎる人も救いようが無い。明らかに、人に
 助けてもらうしかない状況でも、こちらが差し伸べている援助の手を撥ねつけて、自分だ
 けでなんとかしようとするから、助けたくても、どうしようもない。

  夢見は、一見魔法のように見えるかもしれないけど、決して魔法じゃない。夢空間で
 人を救う時と現実の世界で人を救う時の法則性は、ほとんど同じだと言ってもいい。正
 しい知識と訓練、経験と熟練が必要だと言う点も同じかな。

  唯一の違いは、夢空間での人助けは、無意識の力を使うから、現実世界でのそれ
 よりも人の意識に入りやすいって事くらいかな。」



悪夢 第二章 19  ― テレパシー

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 「それで、あなたは、私に『感情の渦に巻き込まれないように』って注意したのね。」

 「もちろん、君の影響を受けて僕の気が滅入るってこともあった。でも、ああ言ったのには、
 もう一つ別の理由があった。君が感情の渦に巻き込まれた状態のまま眠ると、君の夢空
 間の波動が変わり過ぎて、君を助ける事ができなくなるからなんだ。」

 「そういう深い意味があったのね。冷静に事態を把握してないと、問題が余計に複雑になる
 から、ああ言ったとばかり思ってたわ。」

 「その意味もあった。ここが、言葉で人とコミュニケーションをとる時の難しさだね。僕たちは
 英語や中国語で、意志の疎通を図ってるけど、言葉の背後にある互いの経験やそれによ
 って形成されている認識が全く違うから、今回のように一つの表現の表層の意味しか理解
 してもらえないという事も起こるんだね。」

 「あなたが言いたいのは、つまり、テレパシーによるコミュニケーションだとこういう問題は
 起きないってこと?」

 「そういうこと。言葉なんて面倒なものを使わなくても、相手の経験とそれによって形成さ
 れた認識が、ポーンと体と心に入ってくるからね。」

 「ね、話題を元に戻してもいい?夢見を活用して、人を救うって話。」

 「あ、ゴメン。話題がそれちゃったね。

  そう。いろんな人の夢空間を感じた後に、先生が僕たちに伝えた事は、言った事ではな
 く、伝えた事は、まず、どうやっても救うことが出来ない人たちがいるって事だった。」

 「え?夢見を活用して、人を救うって言うのが、次のテーマじゃなかったの?」


悪夢 第二章 18  ― 夢空間の観察

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 「夢空間を歩いていると、色んな空間が自分自身の空間に接している事が分かる。ユング
 風に言えば、集合的無意識を通じて、全人類が繋がっているからだろうね。

  先生は、まず、自分たちの夢空間に接触している他人の夢空間を観察するように指示し 
 た。観察と言う言葉は、正確ではないかもしれない。どんな雰囲気か感じるようにと言っ   
 た方が正確かな。


  この先生の指示は、目が覚めている時に、先生が言葉で指示したモノではなく、共同の
 夢空間で、我々の顔を見て、目と雰囲気で指示されたものだ。覚醒時に、言葉で指示す
 ると弟子たちが、勝手に言葉を解釈してしまうので、弟子が夢空間で自由に動けるように
 なると、先生は、いつもテレパシーで、指示を出した。

  だから、今、君に説明している事も、言葉では正確には伝えきれていない事は、了解して
 おいてくれ。」

 「わかったわ。続けて。」

 「いろいろな人の色々な夢空間の雰囲気を感じた。健全な人生を送っている人たちの夢空
 間は、明るくバランスが取れてる感じだった。怒りや憎しみに捉われている人の空間は、
 嵐が吹き荒れているような空間だったし、希望を失っている人の空間は、まるでゴーストタ
 ウンのように荒廃していた。

  この観察で、僕たちは、この世には、正しい生き方が分からないために苦しんでいる多
 くの人がいる事に今更ながらに気付かされた。

  これは、かなり重い気分になったよ。夢空間で、知らず知らずのうちに彼らの波長に同
 調してしまっていたからだ。先生は、彼らに同情するのは構わないが、波長まで合わせる
 のは良くないと教えてくれた。あくまで、健全な距離を取って、まず彼らの状態を把握する
 のが先決だとも教えてくれた。」


悪夢 第二章 17  ― 夢空間での交流

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   「当時、僕には日本人の兄弟弟子兼トレーニングパートナーがいた。彼の名前は、鷲
  見丈。中国拳法と少林流空手の使い手でもあったんで、一緒に武道の稽古もやってい
  た。先生は、丈と僕に、まず夢空間でお互いを探すように指示した。

   具体的な方法論が分からなかったので、先生にアドヴァイスを請うと、お互いの姿・
  声・足音・体臭・整髪料や香水の匂いなどを通じて、お互いの存在を感じ取るところから
  始めろと教えてくれた。

   前にも言った通り、明晰夢の世界では・・・・・・、面倒だから、これ以降は『夢空間』と呼
  ぶ事にしよう。夢空間では、視覚や聴覚、嗅覚などは現実世界と同じ様に働く。
   だから、これらの五官を通して入ってくる情報は、比較的拾いやすいんだ。

   二人で色々試行錯誤したんだけど、それをここで言うと話が長くなるから、割愛させても
  らって結論だけを言うと、一ヶ月の訓練の後、お互いを見つけ、夢の中で対話できるまで
  になった。ネオとモーフィアスのように武道の稽古もやれるようになった。」

 「何か、小説か映画の中の話みたいね。」

 「ああ、僕たちのやってる武道も夢見も、小説や映画の世界と同じくらいに奇想天外なんだ 
 よ。一つ違うところは、小説や映画はフィクションで、こちらはノンフィクションって事。

  サーシャ、今回、君が経験してた事だって、小説か映画の世界の話みたいだよ。」

 「そう言われてみれば、そうね。」(笑)

 「丈と僕の場合は、同じ師匠について、同じシステムで訓練を受けていたので、比較的
 容易に、コンタクトを取ることができた。問題は、一般の人とどう夢の中で、コンタクトを
 取り、どう人を救うかだ。つまり、夢見を人助けにどう活かすかという事が、次のテーマ
 になった。」

悪夢 第二章 16  ― 夢を使う

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 ・・・よく通っていた公立図書館が見えてきたんだ。久し振りに入って本でも読もうと思って
 中に入った。そして、宗教・哲学・精神世界関係の書籍が置いてあるところに行ったんだ。
 すると、驚いた事に、そこに以前のガールフレンドだった朴へリョンがいたんだ。彼女は、
 僕に

  『あら、ボブ、久し振りね。私、あなたが以前紹介してくれた本を探してるんだけど、
  絶版になってるらしくって、どうしても見つけられないの。どこに行けば、見つかるか
  教えてくれない?』
 
 って聞いてきた。そこで、夢から醒めたんだけど。いつもと違ってたのは、何故唐突に彼女
 が、僕の夢に登場したのかが分からなかったことだ。」

 「あなたが、私の夢に登場した時、私が感じたのと同じ様な感覚をあなたも持ったのね。」

 「そう。で、気になったんで、別れてから6年以上音信不通だった彼女に電話してみたん
 だ。そしたら、『不思議ね。私もあなたに電話しようって考えてたところなのよ。ねえ、あな
 たが、前紹介してくれた本の事なんだけど・・・・・』って、彼女が話し出した時は、ホントに
 驚いた。

  これが、夢の中で、人の意識と接触を持った初めての経験だった。」

 「彼女にも霊感があるから、あなたと意識が繋がりやすかったんじゃない?」

 「それは、先生も同じ事を言ってたよ。その後、先生は僕に、意識的に明晰夢の
 世界で他の人の意識にコンタクトを取る訓練をするように指示したよ。」

 「意識的に?」

 「そう、意識的に。最初の元彼女とのコンタクトは、やろうと思ってやった事じゃないから、
 僕が、夢を『使った』とは言いがたい。その無意識の動きを意識的にやれるようにする事
 が、夢見のトレーニングだと言える。やっと、『夢使い』としての、本格的なトレーニング
 が、始まったんだ。」

 「話が、やっと佳境に入って来たわ。」


悪夢 第二章 15  ― 夢の固定化

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  ・・・暫くすると、ロードアイランドに見えたのは、間違いで、イタリアを歩いていた。更に歩き
 つづけると、祖父母と一緒に住んでいた家らしきものまで見えてきた。『一体、これは、どう
 いうことだ?』と思っているうちに目が覚めた。」

 「どういうことだったの?」

 「自分で考えても、分からなかったんで、先生に聞いてみたよ。すると先生は、『ボブ、
 それは、君の集中力が足りないせいだよ。』って教えてくれた。そして、『今度から、ロ
 ードアイランドを歩いてるって思ったら、その景色に集中してよく見てごらん。』とも教えて
 てくれた。」

 「集中する?」

 「そう、集中。ほら、君が教会堂の前で、博物館だと思い始めた途端に建物が変化し始
 めたのを覚えてるだろう。僕も、その時、君と同じ失敗をしたんだよ。」

 「ああ、なるほど。」

 「で、それから、2ヶ月は、自分の明晰夢を固定させるトレーニングが続いた。集中が
 行き過ぎて、緊張のあまり眠れなくなってしまったこともあったし、気を抜き過ぎて、夢
 空間がメチャクチャになったりもした。バランスを取るのが、思ってたより、難しかった
 よ。」

 「それで、先生が一年目に、夢見もバランス感覚が必要だって仰ったのね。」

 「そう、その通り。」

 「それから、どうなったの?」

 「二ヶ月、トレーニングしたかいあって、やっと明晰夢の空間が固定されてきた。もう
 コロコロ景色が変わるような事は、起きなくなった。

  で、また、ロードアイランドの町を歩いてたんだ。そしたら・・・

悪夢 第二章 14  ― 安全装置

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   「明晰夢の世界の方が、緻密で弾力性のある世界だと言う事は言えるだろうね。」

 「もっと具体的に説明してくれない?」

 「明晰夢の世界も、視覚・聴覚はもちろんのこと、触覚・嗅覚・味覚などの五官で感じるも
 のは、全て現実味があるんだけど、現実世界より、世界を構成している分子が緻密な印象
 を受ける。」

 「弾力性があるって言うのは、どういう意味?」

 「これは、僕が最初に見た明晰夢を例にとれば、分かりやすいかな。あのトイレの中で、周
 囲の物に触れたり、壁を叩いたりしても現実との違いを何も見出せなかった僕は、オートバ
 イを夢空間の中に作り出して、前輪を浮かせて壁にぶつけてみたんだ。

  すると、大理石の壁は、ゴムのように凹んで、前輪を跳ね返した。もちろん、僕が怪我を
 することもなかった。」

 「違いは、この二つだけ?」

 「面白かったんで、明晰夢の中で色々試してみたんだ。ちょっと恐かったけど、『非常
 階段の上から、コンクリートの地面にダイブしたら、どうなるだろう?』って思ったんで、
 ホントにダイブしてみたんだ。そしたら、頭が地面に激突する寸前で、体が空中に止ま
 ったよ。それで、明晰夢の空間の中では、安全装置のようなものが働いているという事
 が分かった。これが、僕が知っている現実世界とのもう一つの違い。」

 「『マトリックス』でネオがビルから落ちて、現実に戻ったら、ホントに口から血が出て
 たみたい事には、ならなかったのね。」

 「ああ、そこが映画と現実の違うところさ。夢空間の中で、『闇の兄弟』たちと戦うの
 なら、話は別だけどね。」

 「『闇の兄弟』?」

 「黒魔術を使う道を踏み外してしまった人たちのことさ。この事は、またいつかユックリ
 話すよ。

  で、こんな事をして暫く遊んでたら、ある時、明晰夢の中で、留学していたロードア
 イランドの町を歩いてたんだ。・・・

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