職業倫理

JUGEMテーマ:エッセー・紀行文

 
 私が中国に行って、一番驚いたことの一つが、職業倫理の欠如である。ともかく、無愛想な店員が日本に比べると圧倒的に多い。レストランでもそうである。注文と違う品を持ってきたり、スープに全く塩が入っていなかったりして、こちらが文句を言っても「ああそう。」とだけ言ってそれきりだったりする。侘びもいれず、ニコリともしない。中国に行ったばかりの頃は、かなりイライラした。それも、あちらで生活しているうちに段々慣れていった。私の住んでいたところは、比較的都会に近かったので、食堂も多く店を選ぶことが出来たので応対の悪い店は避けるようにしたからだ。

 ただ、中国人は横のつながりもあって、ご飯が切れたりすると平気で近くの別の食堂にご飯を「借り」に行ったりするので、別の店で行かなくなった店の店員と鉢合わせて気まずい思いをすることも時にはある。
 
 日本だったら、すぐに潰れそうな食堂でも中国では中々潰れない。日本人なら、サービスが悪かったり、料理がまずかったりしたら黙ってその食堂には行かなくなるが、中国人の場合は、文句を言いながらも、その店に行き続けるからだ。とは、私の前の職場での中国人の同僚の言葉である。
 
 公共の乗り物に乗ってもそうである。運転手も車掌も、恐ろしく愛想が悪い。「グズグズしてないで、早く乗れよ。」とか「混んでるんだから、後ろに行けよ。」などと怒鳴り散らしている。こちらがまだ、乗ったり、降りたりしている最中でも平気で発車する。私は、降りている途中でいきなりバスが発進したので、昇降口から落ちて転倒した女性を見たこともある。日本で、こんな事故が起きれば、大問題であるが、中国じゃ誰も文句を言わない。

 これくらいで驚いてはいけない

 乗っていたバスがイキナリ路線を変更したりする。理由は単純で、走っている道の前方が混んでいるからである。直進する筈のバスがイキナリ、左折したり右折したりするから、一瞬乗るバスを間違えたのかなと思ってしまう。

 もっとビックリしたのは、乗っていたバスが営業所で停まり運転手が降りて行った時のことだ。彼女は事務所に入って行き、同僚とお茶を飲みながら談笑を始めたのだ。10分ほど待たされて彼女は戻ってきたが、誰も文句一つ言わない。言っても何も変わらないからだ。

 もっとも、こういう点の全てが悪いわけではない。仕事がいい加減な分、融通もきかせてくれる。たとえば、バスの停留所以外の場所でも乗せてくれたり、降ろしてくれたりする。こういう時は、日本と違って融通がきく中国社会に感謝したくなる。多少の法律違反や規則違反もコネやお金があれば、見逃してもらえる。私の同僚は以前、知らないうちに就労ヴィザが切れて一ヶ月経ってしまっていた時、外事局の友人に電話して直ぐにヴィザを再発行してもらい、一切罰金も取られずお咎めなしだったと言っていた。
 
  こういう部分を中国社会の腐敗と取るか、中国社会の特性と取るかは意見の分かれるところであろう。私自身はその両方だと考えている。今年の一月、もう直ぐ大学が冬休みに入ろうかと言う時のことである。学内を歩いていると何故か公安(警察)のパトカーが徐行運転をしている。一緒に歩いていた学生に「何か学内で事件でもあったのかな?」と聞くと「学生の両親が自分の子供を迎えに来ているんです。」との答え。私は「ハア(_;)?」と言ったきり言葉が出なかった。そんな私を見てその学生は笑いながら「これでも昔に比べるとよくなった方です。」と言う。

  中国では、オートバイのノーヘルでの二人乗りなどごく当たり前で、時には一つのバイクに3人、もっとヒドイ時には4人乗りしている。オートバイに大人が4人も乗れるのか?と疑問をお持ちの方もいらっしゃるだろう。さすがに中国でも、大人の4人乗りは、私も見たことがない。私がよく目にしていたのは、例えば、お父さん・息子・お母さん・娘の順で二人の子供と二人の大人が一台のバイクに乗っている風景である。

 勿論これは、中国でも道交法に違反する行為である。だが、こういう違反行為が減りそうな様子はいっこうに見られない。原因は土地が広過ぎるのと人間が多すぎるせいでこういう違反行為を全て取り締まることが不可能だからである。今一つの原因は、警察官自体が腐敗していて真面目に仕事をしないからである。あの国が真の意味で近代国家の仲間入りができるのは、まだまだ時間が掛かりそうである。




※この記事のURL: http://koshiki.jugem.jp/?eid=1616

Mianz is everything.

JUGEMテーマ:エッセー・紀行文

  日本にも、本音と建前は有るが、中国のそれは日本とは比較にならないほど両者はかけ離れたものだった。理由は「面子」である。中国人にとって面子は命より大事なものである。
 
 中国で日本語教師をしていた頃、こういうことがあった。授業中、私の話がわからないという表情をしていた女子学生に「今の先生の話は分りましたか?」と聞くと、こちらの目を見て「はい、わかりました。」と言う。こちらが安心して授業を続けていると彼女は隣の学生に中国語で「今、先生はなんて言ったの?」と聞き始めるのである。こういうことが何度も続き、こちらがかなり嫌気が差してきた頃、さらに追い討ちを掛けるようなことが起こる。
 
 授業中、書き取りをさせた時のことである。ちょっと変わった書き取りをやらせるため、私は学生たちに指示を与えてから、書き取りを始めた。件の女子学生にも理解したかどうかを尋ねた。彼女はこちらの目を見て頷きながら「分った」と答える。

 書き取りのテストが終わった後、彼女に自分の答えを読むように言うと、彼女は「分りません」と答える。彼女は私の指示を全く理解していなかったのである。この時は、普段温厚な私もかなりカチンと来た。私は、「お前は何をやってるんだ。ちゃんと人の話を聞け。分らないのなら、分らないとハッキリ言え。」と言いながら、テキストで彼女の頭を軽くポンと叩いた。コノ瞬間彼女は席を蹴って立ち上がり、憤慨した様子で教室を出て行った。授業が終わってから、彼女は謝罪に来た。彼女はハッキリ言わなかったが、話をしているうちに彼女は面子をクラスメートたちの前で失いたくないために、私の言うことがわからなくても「分りました。」と答えていたのだと言うことに気づき始めた。こういう学生は、中国の三流・四流大学にはたくさん居る。彼女が例外的存在というわけではない。
 
 成績の悪い学生ほど、面子に異常にこだわる。しかも、こういう学生に限って学生会の役員だったり、共産党員だったりするからお笑いだ。
 
 勉強ができないから、(と言うより初めから勉強する気なぞないのだが、)せめて学生会の役員や共産党員にでもなって、劣等感を補おうとしているのである。こういう学生が、先生たちのオフィスのイスに座って、先生たちのパソコンや本を背景にポーズを決めて写っている写真が学内の掲示板に張り出され、「優秀学生」とか「優秀党員」と紹介されて居るを見たとき、私は思わず「何じゃ、コノ国は?」と大声で叫ばずにはいられなかった。
 
 ああやって本人の面子だけを保って何のメリットがあるというのか?ただ、個人のエゴを満足させるだけである。教育機関でありながら、全く本人の成長などはどうでもいいかのような所業である。これも四流大学だから仕方がないのかもしれないが・・・。
 
 以前、北京に旅行した時、天安門広場を見に行った。写真で見る天安門広場のイメージとは違い、広場の前には幅50メートルほどの道路があり、一般車がボンボン走っていた。門の前は全て広場だと勘違いしていた私にはかなりの幻滅だった。だが、天安門の裏に回った時、私の幻滅度は更に増加した。裏側は埃だらけで真っ黒だったからである。天下の天安門がである。中国政府は外国人観光客が天安門の裏側も見るということを考えなかったのか?表面だけを綺麗に見せていれば、それで面子が保てると考えている中国人たちの国だけのことはあるなと妙に感心したのを今でも覚えている。



※この記事のURL: http://koshiki.jugem.jp/?eid=1612

騒音

JUGEMテーマ:エッセー・紀行文

 (2007年10月 現在)
 中国に来て、まず最初に驚いたのが日本ではまず経験しないであろう騒音である。住んでいた、大学の寮の部屋の向かい側に、四川料理のお店があって、そのお店の屋根の下に取り付けられた拡声器から、若い女の子の声が、朝10時頃から晩の9時ころまでひっきりなしに聞こえてきた。それも、やや絶叫調の声でである。

  中国に来たばかりの頃はまだ中国語がよく分からなかったので、自分の耳では何と言っているのか全く聞き取れなかった。一ヶ月ほど経ったころ、学生に聞いたところ、食い物の宣伝だと言う。それをカタカナで表記すると以下の如くになる。「マーラータン・マーラーメン・タンタンメン・ローパンフェンスー・ティエパンヨウイュー・フントゥン」(麻辣烫,麻辣面,担担面,肉拌粉丝,铁板鱿鱼,馄饨)である。

 私が中国に来て、最初に覚えた言葉が一番最初の「麻辣湯(マーラータン)」である。それにしても、あんなに連呼しなくてもいいのに。授業の合間に昼寝がしたい私には、苦痛以外の何物でもなかった。何度か抗議しようと思ったが、向こうも商売なので断念することにして、日本の友人に耳栓を郵送してもらい何とか昼寝ができるようになった。
 

 昼寝と言えば、もう一つ私の昼間の安眠を妨げたものがある。私が住んでいた寮の横が空軍基地だったである。向かいの食堂の放送がたまたまなかった時に、シメシメとばかりにベッドに潜り込み、心地よいまどろみに身を委ねていると、突然「ドーン!」という爆発音が地響きとともに聞こえ、その後に「キーン」と言う飛行機の急降下音とともに「ダ、ダ、ダ、ダ!ダ、ダ、ダ、ダ!」と機銃掃射の音が聞こえるのである。最初に聞こえた爆発音は、大砲から発射された砲弾が地面に着弾して爆発した音であろう。ウルサイやら、怖いやらで昼寝どころの騒ぎではない。
 

 日本でも基地問題というのはあるが、私の実家の近くには基地というモノが無かったので、それほど基地問題というのを真剣に考えたことはなかった。この経験をしてから、基地の近くの住民は大変だろうなとは思った。が、私の場合は、基地が寮の真横だったのでこれらの音はかなり迫力があった。もっともこの訓練も、一ヶ月ほどで終わったので、ヤレヤレと胸を撫で下ろした。不思議だったのは、訓練の期間中も地元の人たちが平然と生活していたことだ。大陸の人たちが、大らかなのか、島国から来た平和ボケしている私が神経質過ぎただけなのか、あるいはその両方だったのか、いずれにしてもお互い違う世界に住んでいることだけは確かなようだ。




※この記事のURL: http://koshiki.jugem.jp/?eid=1609

International apartment 155  ― "Women shi hunxue'r."

JUGEMテーマ:ノンフィクション


 ある日、昼食を摂るために、市場の中にある食堂街を歩いていると、向こうから、大きな笑い声と共に、リリーとエイミーが歩いてきた。二人は、

 「我们是混血儿。 Women shi hunxue'r.(私たちは、混血児です。)」

とお店の人たちに言いながら、歩いていた。

  私   :おい、リリー、エイミー!何してんだよ、こんなところで?

  リリー :あら、リュウ。あのね、私たち、あなたに習った中国語を試していたの。

  エイミー:ちゃんと通じたみたいよ。

  私   :そうか。そりゃ、教えた俺も、鼻が高いよ。ところで、ご飯食べた?

  リリー :まだよ。じゃあ、一緒に食べようか?

  私   : いいよ。

 というわけで、二人と昼食を共にすることに。三人で食べながら、話題は、マークの事になった。

  エイミー:ねえ、マークの彼女、ちょっと太めだと思わない?

  私   :え、そんなことないだろ。僕が見た女の子は、スタイルよかったよ。

  リリー :どの女の子のこと?

  私   :この間の晩に来てた子だよ。

  リリー :多分、エイミーが言ってるのは、あなたが見た子じゃないと思うわ。

  私   :全く、お盛んだな、マークは。

  エイミー:昨日、私が一緒にいるのを見た子は、ちょっと太めだったわ。

  私   :へーー。多分、僕は、その子は見た事がないと思うよ。

  リリー :欧米の男性は、大抵、太目のアジア人の女性が好きなのよ。

  私   :フーーン。・・・って、君たちの彼氏も、欧米人じゃないか?(^_^)

  二人  :ホ、ホ、ホ。(^o^)丿

 自爆である。実は、二人とも、標準よりは、やや太めの体型なのである。こんな風に、楽しく話しながら、食事も終りかけたころ、私の隣に座っていた中国人の男性が、私に話しかけてきた。

 「その人たちは、どこの国の人たちだい?」

 「インドネシアとシンガポールの人だよ。でも、二人とも中国人の血が入ってるんだ。」

 「ああ、道理でね。ちょっと南方の中国人みたいに見えるよ。実は、オレも南方の出身
 なんだ。」

 「え、そうなんだ。どこから来たんだい?」

 「広東省さ。あんたは、中国人か?」

 「いや、日本人だよ。」

 「日本人?多分、オレの中国語より、あんたの中国語の方が上手いと思うよ。」

 「ありがとう。」

 「じゃあ、俺は、仕事があるから、これで。お嬢さんたち、ユックリ食事を楽しんで
 下さい。サヨナラ。」

 リリーとエイミーは、笑顔で彼に「再見!」と挨拶を返した。随分と感じのいい男性だった。北方の人たちとは、違う距離の取り方である。東北の人たちは、どちらかというとすぐに距離を詰めてくる人たちが多いが、南方の人たちは、初対面の人とは、ある程度の距離を置いて接する人が多いようだ。日本人の私にとっては、どちらかと言うと、後者の方が心地よく感じる。(未完)

 


 


International apartment 154  ― 奇妙な国

JUGEMテーマ:ノンフィクション


 ある日、エチオピア人の旧友から電話が入った。久し振りに会いたいという事で、吉林大学の友誼会館で、会うことになる。

 私の住んでいたアパートから友誼会館に行くには、バスを二台乗り継がねばならない。

 バスを乗り継ぐ場所は、吉大医院というバス停である。

 バスに揺られながら、景色を眺めているうちに吉大医院前が近くなってきた。吉大医院のひとつ前のバス停に、バスが停車した時の事である。客が乗降を終えた後に、運転手が降りて行った。

 こういう事は、よくある。降りて行って、営業所でそのまま5分か10分お茶を飲んだり、エンジンを点検したり、或いはガソリンスタンドで給油したりする。だが、ここは普通の停留所である。近くにお店もないし、ガソリンスタンドもない。かといって、エンジンの様子を見ようとしているわけでもないようだ。

 何をするつもりなのかと訝っていると、あろうことか、彼はバス停で立小便を始めた。乗客全員が見ている前でである。日本で、バスの運転手がこんな事をしたら、それこそ大問題であるが、ここは中国である。その時、目にしたことは、ちょっと驚いたが、まあこんなもんかと受け入れている自分がいた。

 吉大医院で降りて、別のバスに乗り換えるために、道の反対側のバス停に行こうと私は道を渡り始めた。

 松が植えてある中央分離帯を越えて、道を渡ろうとした。すると、向こうのバス停が見えたのだが、・・・・・・

 バスナンバーと行先が書かれた大きな看板の向って右側にバスを待っている人たちの列が見え、看板の左側には、真昼間から情熱的なキスシーンを演じている中学生が二人いた。見た感じ、中一か中二くらいの年頃である。

 「随分、ませた中学生だな。」と思いながら道を渡る。ところが、男の子だとばかり思っていた髪の短い方の中学生は、近くに来てよく見てみると女の子だった。うーーん、シュールだ。(ーー;)

 この日は、一度に凄いものを二つも見てしまった。女の子達は、私に見られたことに気がついて、暫く私の顔をジッと見ていた。

 私は、弟子のL君が教えてくれた言葉を思い出した。

 「この奇妙な国では、どんな事が起きても、不思議ではない。」

 


International apartment 153  ― 司法書士からのメール

JUGEMテーマ:ノンフィクション

 瀋陽から帰って来て、一週間ほど経ったある日の夜、夕食を摂りに外に出ると、ジルカと彼女が道で話していた。


  私  : よお、ジルカ。久し振りだな。

  ジルカ: あ、ほんと久し振りだな。

  私  : よかったら、彼女を紹介してくれよ。

  ジルカ: ああ、こちらは、リュウだ。彼女は、王丹麗だ。

  私   : こんばんは。

  王  : あなた、東北の人?

  私  : いや、俺は日本人だよ。

  王  : え、日本人?あなたの中国語を聞いてると、東北の人みたいに聞こえるわ。

  私  : そうなんだ。自分では、あんまり意識してないけど、もう5年も住んでるから、
      知らない内に東北人みたいな発音になってるかもね。君の中国語には、少し訛
      があるみたいだけど、君はどこの出身なんだい?

  王  : 私?私は、上海の出身よ。

  私  : そうなんだ。君は、学生か?

  王  : いいえ。こっちで今仕事を探してるの。彼もよ。

 王さんは、そう言って、ジルカを見た。

  ジルカ: そうなんだよ。まだ、いい仕事は見つかってないけどね。

  王  : ねえ、リュウ。あなたは、何の仕事をしてるの?

  私  : オレ?俺は、日本語の教師だよ。

  王  : 大学の先生?

  私  : まあ、大学の先生だったてのが、正確かな。でも、俺は大学に直接雇われて
      たわけじゃなくて、外国人教師派遣会社に雇われてて、その会社から大学に派遣
      されて、教えに行ってたんだよ。

  王  : その会社、どう?お給料は、いい?

  私  : これから言う事、誰にも言わないって約束してくれる?

  王  : 約束するわ。信じて。

  私  : 正直言って、かなり中間搾取されている。他の教師もみんな文句ばっかり言って
      るよ。あの会社には、入らない方がいいね。

  王  : わかったわ。

  ジルカ: なんかいい仕事があったら、紹介してくれよ。

  私  : ああ、いいのがあったら、連絡するよ。俺は、もうすぐ日本に帰るから、近いうち
      に三人で、酒でも飲もうか?

  二人 : いいよ。

 二人と別れて、いつもの食堂に行って、いつもの料理を注文し、いつもの如く食べ残しを持ち帰った。部屋に戻って、パソコンを開くと、福岡の司法書士からメールが届いていた。

 [署名証明書と在留証明書の住所が、違うのでもう一度、瀋陽に行って頂かねばならなく
 なりました。]

 "F・・k!" “・・你妈!”

 それを読んだ瞬間、思わず英語と中国語で、罵り言葉を口にしてしまった。また、高い運賃を払って、瀋陽に行かねばならない!


International apartment 152  ー ADHD

JUGEMテーマ:ノンフィクション


 瀋陽から、帰って来た翌日、昼頃、エイミーとリリーが部屋にやって来た。

 エイミー: リュウ、よかったら、中国語を教えてくれない?

 私    : ああ、いいよ。でも、オレは、まだ食事をしてないから、1時半くらいからで
      いいかい?

 リリー : ええ、いいわよ。

 と言うわけで、昼過ぎから、再び中国語の勉強をすることに。前日、L君たちと食事をしていた時の、食べ残しをチンして、食べ寛いでから、共用部に出る。エイミーたちと、椅子をテーブルに付けてたりして、準備していると、マークが帰って来た。

 「お、お帰り。マーク。」

 「え?何してるんだい?」

 「今から、中国語を三人で勉強するんだよ。」

 「僕も参加していいかい?」

 「ああ、いいよ。」

 そう返事をしたものの、あまりマークと一緒にはやりたくなかった。以前、空手の練習を見学させた時に、彼はあらぬ方向ばかりを見て、ほとんど私の話を聞かなかったからだ。

 全員揃ったので、私は、早速発音の基礎練習と前回の復習から始めた。案の定、マークは、私の説明が始まった途端に、目が泳ぎ始めた。「こいつはー(ーー;)」と思ったが、私は何も言わなかった。

 このときは、彼の人間性だと思っていたが、どうもそうじゃなかったのかもしれないと今朝から思い始めた。実は、今年の7月末に、日本からマークに打っていたメールに、昨日随分遅い返事が返って来たのだが、そのメールの中の英文がメチャクチャだったのだ。

 どうメチャクチャだったかというと、大学出の人間が書いたものとは到底思えないほど、誤字脱字だらけの上に、文脈も支離滅裂だったのである。それは、単に教養がない人間が書いたひどい文章以上の何かアブノーマルなものを感じさせるモノだった。彼が、小説家として、絶対成功できない事は、私が保証できる。

 もしかしたら、彼は所謂ADHD=注意欠陥他動性障害だったのかもしれない。

 メールには、私に最後に紹介した女性と結婚したと書いてあった。

 まだ、この時点では、彼はちょっと変わっているくらいにしか思っていなかった。実は、この後、彼の本性が明らかになるのである。

 


International apartment 151  ― エイズ撲滅キャンペーン

JUGEMテーマ:ノンフィクション


 L君たちと別れて、アパートに戻って来ると、共用部にエイミーがいた。彼女は、マークの部屋を指差しながら、

 「また、女の子が来てるわよ。」

と小声で言った。

 「またか。相変わらずだな。」

 「かなりの美人よ。昨日も来てたわ。」

 「同じ女の子か?」

 「別の女の子よ。そっちも美人だったわ。」

 羨ましいと言うか、節操がないというべきか迷う所だが、あまり関わりにならない方がよさそうである。私は、瀋陽行きの疲れもあって、部屋に戻ってベッドに横になった。ウトウトしかけた時に、ノックの音で目が覚めた。ドアを開けると、マークと20代後半くらいに見える女性が立っていた。

マーク : リュウ、紹介するよ。こちらは、エレーンだ。エレーン、こちらはリュウだ。

わたし : 始めまして、リュウです。

エレーン: こちらこそ。マークから、あなたは日本人だって聞いたんだけど・・・・・・

わたし : ああ、そうだよ。

エレーン: 去年の地震は、かなり酷かったみたいだけど、ご家族やご親戚は、大丈夫?

わたし : 僕の故郷は、あそこからはかなり離れているんで、大丈夫だよ。心配してくれ
     てありがとう。

 どうやら、彼女は思いやりのある人のようだ。それに、かなり真面目な人にも見えた。

わたし : 君は、マークのガールフレンドかい?

エレーン: いいえ、ただの友達よ。

マーク : 彼女とは、昨日バスの中で知り合ったばっかりなんだ。

 全く手の早い男である。

エレーン: ねえ、リュウ。聞きたい事があるんだけど・・・・・・

わたし : ああ、いいよ。なんだい?

エレーン: マークの女友達って、みんなキレイな人?

マーク : 彼女は、それが気になるらしいんだよ。

 どうやら、彼女はマークに気があるらしい。選りによって、こんなヤツを好きにならなくたってとは思ったが、そのことは口に出さずに、彼女を安心させる事にした。

わたし : 今まで、見た中じゃ君が一番美人だよ。

 これは、ホントだった。エレーンは、かなりの美人である。

エレーン: アリガトウ。 

わたし : 中国じゃ、白人の男性はモテるからね。マークの女友達の事が気になるの
     かい?

 そう言うと、エレーンは、少し顔を赤らめて、恥ずかしそうに俯いた。

マーク : 僕もそう聞いてたから、楽しみにしてたけど、友人からエイズも多いんで注意す
     るように言われたよ。

わたし : ああ、それはそうだ。だから、こっちじゃ大人しくしておいた方が身のためだぜ。

マーク : それは、大丈夫だよ。この間、道を歩いてたら、警察官が、「エイズ撲滅
     キャンペーン中です。」って言って、袋いっぱいのコンドームをくれたよ。

 これを聞いて、エレーンは少し眉を顰めた。どうも、マークは空気が余り読めないようだ。

エレーン: 警官がくれたの?

マーク : ああ、そうだよ。ちょっと、待っててくれ。今持ってくるから。見せてやるよ。

 そう言って、マークは、ビニール袋いっぱいのコンドームを持って来た。エレーンは、やや引きつった笑いを浮かべた。正真正銘のKYである。

わたし : おいおい。わざわざ持ってこなくてもいいよ。警官が、くれたのか?

マーク : ああ。

エレーン: それ、ホント?

マーク : ああ、ホントだ。

わたし : エレーン、中国では、警官がコンドームを無料配布する事なんてあるのか?

エレーン: いいえ。聞いたことないわ。

 二人で、いぶかしげな顔をして見詰め合っていると、マークが呵呵大笑しながら、

マーク : ハ、ハ、ハ。冗談だよ。中国に来る前に、友達が「エイズが、怖いから」って
     言って、僕にくれたんだ。よかったら、君たちにも上げるよ。好きなだけ、取ってく
     れ。

と平気な顔で言った。全く、どこまで空気読めないヤツだ。エレーンも、私もかなり白けた顔をしていることに気がつかないらしい。

エレーン: ねえ、マーク。私、そろそろ帰らないと・・・・・・

マーク : ああ、そうだったね。じゃあ、行こうか。

 エレーンは、もうこれ以上、その話題を話したくないようだった。彼女がこのアパートに来る事は、二度とないだろう。


International apartment 150  ― 運命の分かれ道

JUGEMテーマ:ノンフィクション


 「お、L君、今長春に着いたよ。」

 「先生、お帰りなさい。」

 「ああ、もうご飯食べた?」

 「いえ、まだですけど。」

 「よかったら、一緒に食べないか?君んちの裏の串焼き屋で。」

 「いいですけど、先生、お疲れじゃないんですか?」

 「疲れてるけど、腹も減ってるよ。一人で食ったって面白くもなんともないしね。串焼き屋
 についたら、そっちにメッセージを打つよ。」

 「分かりました。待ってます。」

 というわけで、L君、そしてL君の彼女と一緒に食事をすることに。私が、店に着いて一人でビールを飲んでいると、二人がやって来た。

L君  : 先生、コンバンハ。
 
わたし: よお。座れよ。さっき列車の中で、ベルトのバックルが壊れちゃったよ。今度、買い
    物に行くときにでも買いたいんだけど、一緒に来てくれないか?

L君  : ああ、いいですよ。ところで、書類の郵送はうまくいきましたか?

わたし: ああ、おかげさまで・・・・・・

L君  : 先生、どうなさるんですか?日本に帰られるんですか?それとも、こっちに戻って
    来られますか?

わたし: それは、手に入るお金の額によるね。

彼女 : 先生、こっちに戻って来てください。

わたし: ああ、そうしたい気持ちもある。でも、あっちでやる事があるからなあ。どっちに
    しようか、俺も迷ってるよ。

L君  : 瞑想はしないんですか?

わたし: それが、オレの本来歩むべき道だから、そっちに戻りたいんだけどね。やっぱり
    食べていかないとね。現実は、厳しいよね。

L君  : 先生、ある預言者は、今年の10月までの予言をして、結構当ってるらしいんで
    すけど、それ以降の未来は、その人も見えてないらしいんですよ。

わたし: へえー・・・

L君   : 先生のやろうとなさっている事は、みんなのために必要な事だと僕は思います。
    食べる事より、生きる事の方が、重要でしょ!?

 普段、全くこの手の話をしない超現実主義者のL君の口から出た言葉だっただけに、彼の言葉は私の心に重く響いた。

わたし: まあ、八分方そうするつもりだけど、もし200万未満しか手に入らなかったら、
    瞑想を完成させる生活資金が絶対的に足りないから、こっちに戻って来るよ。

L君  : もし、200万以上手に入ったら、どうしますか?

わたし: それは、全然頭に無かったね。

 ちょっと不思議な感じだった。普段は、私と別れたくなさそうな事ばかり口にしていた彼が、その日に限って、私に強く帰国を勧めたからである。結局、そんな大金は手に入らなかったが、この時の彼の言葉で、日本に帰る気持ちが更に強くなったのは、事実である。


International apartment 149  ― 旅の終わり

JUGEMテーマ:ノンフィクション


 公主嶺で、気のいい若者達は、「再见!」と私に挨拶して、降りて行った。

 私は、また「マスターの教え」の世界に戻った。この本は、難しい言葉など一切使っていないのに、何度読んでも、新しい発見をする深くて、不思議な本である。恐らく、自分の意識が広がる度に、マスターが行間に込めた深いメッセージを読み取れるようになるからだろう。

 本を読み終え、暫く瞑想した。目を開けると、列車は、もう長春市内に入っていた。駅の汚いトイレで用を足したくなかったので、トイレに行く。トイレに入った途端に、ベルトのバックル部分が、バチンという音と共にベルトから外れてしまう。バックル自体が壊れたので、修復不可能なようだ。なんか縁起が悪い。


 列車が到着してから、席を立つと人に邪魔されて中々降りる事が出来ないので、今のうちに昇降口のところまで行っておく事にする。

 ドアの所までいくと、一番下の段に中年の男性が立っていた。彼は、私を見るなり、

 「先に来とかんと、列車が着いてからだと中々下りれないからなあ。」

と言う。

 「確かに、その通りですね。」

 「人が中々前に進まないとイライラするから、いつも先に出口に来ておくことにしてるんだ。
 セッカチなんだね、たぶん。」

 「私も、そうですよ。」

 お互いに顔を見合わせて、ニヤリと笑う。妙な所で、妙な人と気が合ったもんである。

 列車が、プラットフォームに着き、ドアが開いたので、下りて駅の出口に向う。ポケットから、切符の半券を出して、女性の駅員に渡して、出ようとすると、いきなり腕を掴まれた。

 「ちょっと待ちなさいよ。」

 「なんだ?」

 「これは、長春から瀋陽行きの切符じゃない。タダ乗りは、許されないわよ。」

 どうも、私は行きの切符の半券を間違えて渡してしまったらしい。

 「あ、ゴメン、ゴメン。間違えたよ。これだろ?要らないから、捨てといてくれ。」

 と言って、もう一枚の半券を渡した。彼女は、黙って半券を返してきた。物凄い人数だから、いちいち預かって捨てていたら、キリがないのだろう。表に出ると、ゴミ箱があったので、半券を二枚とも捨てる。

 無事、帰った事を伝えるため、L君に電話を入れた。(つづく)



 


profile
calendar
  12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  
<< October 2019 >>
selected entries
categories
archives
recent comment
free counters
sponsored links
links
search this site.
others
mobile
qrcode
powered
無料ブログ作成サービス JUGEM