空手・拳法物語 此   金色に光る眼

JUGEMテーマ:空手道

 夕方近く、三郎は昼寝から目を覚ました。三日ほど前から、昼夜逆転の生活を送っているのだ。

 最初の日は、友人に手伝ってもらい、徹夜で自宅の広い庭に海の岩場から運んできたギザギザの大岩を到る所に埋め、夜が明けるとともに床に就いた。

 そして、二日目の夜から、三郎独特の特訓が始まった。明かりもない真っ暗闇の自宅の庭を端から端まで全力疾走するのである。

 真っ暗なので、岩の直前に来るまで、岩が見えない。三郎は、岩があると気付く度に、両膝を胸に引き付けて岩を飛び越えた。一歩間違えると、大怪我間違いなしの無謀とも言える特訓である。

 三郎は、夜目と反射神経を鍛えるため、そして危機的状況でも平常心を保てるようになるために、敢えて無茶としか思えないこの訓練を自らに課したのだ。

 この訓練を一週間続けた。途中、何度か足が岩に引っかかって、冷や汗をかいたが、幸い足や膝の皮を擦り剥く程度の怪我で済んだ。

 この訓練を終えた三郎の目付きは、一変した。大人しそうだった目が、鷹のように鋭い目に変わったのである。これは、昼起きて、夜寝る通常の生活に戻った後も、変わることはなかった。

 戦後、三郎は、福岡で剛柔流空手を指導し始めた。三郎の弟子たちは、組み手の最中、彼の眼が金色に光るのを何度も目撃している。


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空手・拳法物語 后 崘者」

JUGEMテーマ:空手道

 高原は、道場仲間の真栄城と二人で、夜の那覇に遊びに出た。空手修行のため沖縄に引っ越して来て、既に2年が経っていた。今日は、稽古が休みなので、同じ道場の飲み仲間の真栄城と夜の街に繰り出したのだ。

 ビアホールで喉を潤し、いい感じに出来上がってきたところで、真栄城行きつけの店で飲み直すことする。

 高原にとっては初めて行く店だったが、中に入ってすぐに高原はその店が気に入った。入り口から入ると、すぐ左手にカウンターがあり、広々としたホールには丸テーブルがちょうどいい間隔で置かれている。バーテンやウエイトレスたちのサービスも行き届いているし、店内に流れているBGMも店の雰囲気にマッチしていて実にいい感じである。

 二人は、奥のテーブルに座り、水割りを飲みながら、武術や仕事の話で盛り上がる。話し始めてすぐに、高原たちはカウンター近くのテーブルから、一人の女性が高原に視線を送っているのに気がついた。見ると、髪が長いかなりの美人である。

 高原は、かなりハンサムな男である。本人の意志とは無関係に、どこに行っても、若い女性の注目を集めてしまう。

 「おい、あの娘、さっきから、お前のことずっと見てるぜ。お前に気があるんじゃないか?」

 「よせよ。俺には、・・・・・・」

 「美那がいるか?硬い事言うなよ。いいじゃないか、たまには息抜きで、ほかの女の子と遊んだって。」

 「馬鹿言え。そんな事、あいつに知れたら、・・・・・・」

 「美那に前蹴りで金的を蹴られちゃうか?」(笑い)

 美那というのは、高原の許婚で、師匠の娘である。下手な事をすると後が怖いし、せっかく沖縄語まで憶えて築き上げてきた道場での信頼も壊したくはなかった。だが、視線が合ってしまったので、無視するのも妙な感じだ。仕方なく、高原は、笑顔で彼女に向かって手にしていたグラスを持ち上げてニッコリと笑った。すると、彼女の方もグラスを持ち上げて答えてくれた。

 「オッ、彼女、挨拶を返してくれたぜ。あっちまで行って話しかけろよ。」

 「行かないよ。綺麗なバラにはトゲがあるっていうだろ。」

 「性格悪そうな子には見えないけどな。」

 「性格良くったって、男がいるかもしれないだろ?ああいう綺麗どころには大抵男がついてんだよ。」

 「それは、まあ、そうかもね。じゃ、やめとくか。」

 どうやら、真栄城は、けしかけるのを諦めたようだ。二人は、彼女から視線を外して、飲み始めた。二杯ほどグラスを空けた後、高原はトイレに立った。用を足して、トイレから出て来ると、彼女も女性用のトイレから出てくるところであった。彼女の方から笑顔で話しかけてきた。

 「あら!ねえ、私のテーブルに来て、一緒に飲まない。」

 「そうしたいのは山々だけど、やめとくよ。友達と一緒だし・・・・・・」

 「じゃあ、あの人と一緒に来ればいいじゃない。」

 「いや、でも・・・・・・」

 「あなた、沖縄の人じゃないでしょ。言葉で分かるわ。どこの人?」

 「九州」

 「へえ、そうなんだ。」

 高原は、彼女に捕まってしまった。なるべく早く会話を切り上げて自分たちのテーブルに戻りたかったが、なかなか戻ることができない。美人と話すのは、決して嫌ではなかったが、「マズイなあ、こんなところを、真栄城はともかく、同じ道場の他の連中に見られたら・・・・・・」と心配になってきたちょうどその時、

 「おい、珠理(ジュリ)、お前、こんなところで何やってんだ?」

といきなり、横から男の声が聞こえ来た。振り返ると、アロハシャツを着たサンダルを履きの痩せた男が立っていた。男は、高原の頭のてっぺんから足まで、ジロジロ見て、

 「おい、お前、なに人の女に手出してんだ?」

とケンカを売ってきた。シマッタと思ったが、時既に遅しであった。こういう場面を男に見られたら、誤解を解くのは非常に困難である。それでも、一応、

 「いや、それはあんたの誤解だよ。俺は、ただこの人と話してただけだよ。あんたたち二人の邪魔をする気はないから、俺はこれで失礼するよ。」

と言って、そのまま自分たちのテーブルに戻ろうとした。男は、

 「おい、待て!」

と言って、高原の左腕をもの凄い握力で掴んだ。顔面にパンチが飛んで来そうな気配を察した高原は、反射的に男の手の甲を抑えて、取手(トゥイディー)=関節技をかけた。男は、顔を顰めて、うずくまりながらも左の拳で高原の足の甲を打ってきた。

 高原は、サッと足を引いて足裏で男の肩を押した。男は、綺麗に受身を取りながら床を後方に転がってから立ち上がった。どうやら、この男もかなりの使い手のようだ。

 このころになると、事態を察した真栄城が、トイレの前にやって来ようとした。だが、高原は、片手を上げて真栄城を止めた。

 「お前は来るな!」

 道場では、私闘は堅く禁じられている。揉め事に真栄城を、巻き込むわけにはいかなかった。それに、もう少し、相手の技も見てみたかった。こういう荒事の場面になると、血が騒いでしまうのが高原の悪い癖である。

 争いごとの種を作った女の子の方は、少し離れた場所で、血の気のない顔で二人を見ている。まだ宵の口で、二、三人しか店内にいなかった客たちも、店の隅に避難して、固唾を呑んで成り行きを見守っている。

 二人は、トイレとホールの間の空間で対峙した。こういう状況になれば、もはや問答無用である。男はサンダルを後ろに蹴るようにして、脱ぎ捨てる。二人は、スッと間合いをつめて、拳を交える。

 「フン!」「フン!」「フン!」

 高原の顔面突きを男が受け、突き返して来る。高原は、男の突きを払って、男の顎に前蹴りを放つ。男は、バク転で、高原の蹴りを躱す。実に驚くべき反射神経だが、驚いている暇はない。高原は、バク転直後の男の両足に向かって、足払いのようなローキックを放つ。

 すると、男は店のテーブルに飛び上がる。高原は、体の回転を止めずに、後ろ回し蹴りで男の両足を払った。

 正確には、払ったつもりだった。こういう場面では、大抵は、後ろ回し蹴りで相手を転倒させることができる。だが、男は、側転宙返りをしながら、高原の蹴りをよけ、そのまま天井の細い梁を足の指で掴んで天井からぶら下ったのだ。

 それを見た瞬間、高原は、「真栄城、逃げるぞ!」と叫んで、店を飛び出した。真栄城も、必死の形相で後ろからついて来る。

 あんな化け物を相手にしてたら、命が幾つあっても足りゃしない

 「おい、真栄城、沖縄にはあんな奴が、ウジャウジャいるのか?」

 「いや、俺もあんなのは、初めて見た。化けもんだ、あいつは。」

 

 その後、高原は、町で美人に視線を送られても、相手にしないようになった。


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空手・拳法物語  「老師は、どこに?」

JUGEMテーマ:空手道


 太平洋戦争の中頃、岡崎輝雄は、陸軍航空部隊の戦闘機乗りとして中国東北地方の四平にいた。ほとんど毎日のように訓練に明け暮れていたが、単調な生活に些かウンザリしていた。中々出番が回って来なかったからである。

 訓練自体も退屈なものだった。戦闘機を操縦しながら、敵機役の戦闘機の尾翼に取り付けた吹流しを銃撃するのだが、これが殆ど命中しない。訓練で当らないのに、実戦で当るのかという疑問もあり、訓練にもあまり身が入らなかった。

 当時、同じ部隊に沖縄出身の与那嶺という男がいた。この男は、沖縄剛柔流の使い手で、少林流空手の心得のある岡崎とは気が合い、訓練の合間に、部隊近くの飲み屋に行ってはよく酒を酌み交わしていた。

 そんな退屈な生活が続いていたある日のこと、中国語が達者な与那嶺が、思わぬニュースを持って来た。

 「おい、岡崎、近くの村に、物凄い拳法の使い手がいるって噂だぜ。」

 「ホントか?」

 「ああ、何人もその先生の腕前を見たらしい。 以前、その村に馬賊が入ってきたことが
 あって、その先生が一人でその連中を蹴散らかしたのを村の人間が何人も目撃してる。 」

 「そうか、そりゃ凄いな。」

 「どうだ?」

 「どうだって、どういう意味だ?」

 「分かってるだろ。貴様も俺も、空手バカだ。」

 「会いに行ってみるか。」

 「そう来なくっちゃ。」

 「しかし、その先生のお宅がどこか分かってるのか?」

 「任せとけって。その点は、抜かりがないよ。その噂話をしていた村の百姓に少しばかり
 金をつかませて、先生の家の前まで、案内してもらったよ。」

 「全く、貴様ってヤツは、どこまで空手バカなんだ。それくらいの情熱で、身を入れて
 銃撃訓練をやれよ。」

 「それを、貴様に言われたくはないよ。」

 「ハ、ハ、ハ」「ハ、ハ、ハ」

 というわけで、二人は訓練が休みの日に、拳法の名人の御宅にお邪魔することに。

 「ゴメン下さい。」

 と玄関で声をかけると、

 「はい。」

と言う声とともに、一人の温厚そうな中年男が出て来た。二人は、日本式にお辞儀をした。岡崎は中国語ができないので、与那嶺が話し始めた。

 「私たちは、この近くの日本陸軍航空部隊の者です。老師のご高名を伺って、突然で眞に
 失礼とは思いましたが、本日お邪魔した次第です。」

 「日本の軍人さんが、私に何の御用でしょう?」

 「わたくしたち、二人とも空手を修行しております。」

 「ああ、聞いた事があります。福建省の方から、琉球に伝わったものでしょう?」

 「そうです。もし、先生さえご承知頂ければ、一手ご指導願いたいのですが?」

 「一手ご指導」とは、とどのつまりが「試合をして下さい。」と言う意味である。与那嶺は南国男児の血が騒いだのだろう。老師は、あまり乗り気ではなかったが、結局与那嶺の熱意に押し切られて、村の空き地で立ち会うことに。

 老師と与那嶺は、それぞれ中国式と沖縄式の礼式でお辞儀をしてから、構えを取った。老師は、三才式、与那嶺は正眼の構えである。二人は、ジリジリと間合いを詰めていく。

 先に攻撃を仕掛けたのは、与那嶺の方だった。相手の構えを掌で払い、一気に間合いに入っていこうとした。と、その瞬間、老師の姿がどこにも見えなくなった。

 傍で二人の試合を見ていた岡崎の視界からも、一瞬老師の姿が消えていた。

 「アッ、上だ、与那嶺!」

 と岡崎が叫んだ時はもう時すでに遅しであった。人間離れしたジャンプ力で、与那嶺の頭上を跳び越えていた老師は、上空で軽く足を後ろに振り、踵で与那嶺の肩甲骨のあたりを蹴った。与那嶺はそのまま、前のめりに倒れて、二人の勝負はついた。

 この後、二人は老師に弟子入りを懇願したが、「日本の軍人さんに、中国人の私が教えられるわけないですよ。」と言って、承知してくれなかった。二人は、断られても「わたしたちが、日本人である事も、軍人である事も忘れて下さい。」と言って、何度も頭を下げて頼んだが、老師は最後まで、入門を承知してくれなかった。中国人に対する差別意識が一般的だった当時、日本の軍人である二人が、ここまで礼を尽くして入門を懇願したのは、眞に異例のことである。それだけ、この老師の技が素晴らしいものだったと言う事であろう。

 戦後、日本に帰国してから故郷に道場を開き、空手を指導するようになった岡崎であるが、晩年になっても、このときの立会いの凄まじさを忘れる事はなかった。


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空手・拳法物語 掘 峽嘩」

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 恭一は、ご機嫌だった。街に出てパチンコで大勝ちしたからである。懐も暖かくなり、どうしようかと考えていると、ふと今日は地元の祭りがある日だと気がついた。

 祭りに行って、ちょっと可愛い女の子でも誘って、一緒に酒でも飲めればご機嫌だ。そう考えた恭一の足は、祭りが催されている神社近くの空き地へと向いた。

 行ってみると、結構知り合いも沢山来ている。軽く挨拶を交わしながら、めぼしい女の子を捜していると、知らない男が、こちらに眼を付けてくる。松濤館流空手参段で、腕っ節には自信のある恭一は、その男に向って、

 「おい、何、眼付けてんだ?やる気か?」

と叫んだ。

 「何だ、お前は?こっちは、ただお前が知り合いに似てたから、見てただけだ。」

 「おい、自分の方から、眼付けといて、ビビってんじゃないよ。」

 「何だと?おい、大人しくしてれば、付け上がりやがって。ちょっと顔貸せや。」

 売り言葉に買い言葉とは、このことである。二人は、空き地の裏の小高い丘の上にある神社の境内に上った。恭一は、男と向き合い、オーソドックスな空手の正眼で構えた。大抵のヤツが、この構えを見た途端に、ビビッて詫びを入れてくる。ところが、この男は、ビビるどころか、右の拳を顔の横に左の拳を下段に取る妙な構えをして間合いを詰めてくる。

 どこかで目にした構えだった。そうだ!これは、少林寺拳法の構えだ。恭一が、その構えの正体に気付いた瞬間、男が連攻を仕掛けてきた。

 「フン!フン!フン!」

 二人の突きと受けが一瞬、交錯した。次の瞬間、相手の顔はいつの間にか、恭一の構えの外に来ていた。「シマッタ!」と思った瞬間、恭一は男に右手首を取られて、小手返しを掛けられていた。

 小手返しは、別名「猿投げ」とも呼ばれ、相手の手首の関節を取って内側に丸め込みながら投げる技である。ブンという音とともに恭一は投げ飛ばされ、そのまま神社の階段を後ろ向きに転げ落ちた。

 「ここで、降参してたまるか!」と闘志に火がついた恭一は、階段の下から犬のように四つん這いのまま一気に階段を駆け上った。すると、待ち構えていた男が上から、恭一の顔に向って前蹴りを放った。

 「バン!」

 という物凄い音とともに、恭一は蹴り足の脛を掌底で思いっ切り受けた。その瞬間、二人の動きが止まった。男は、恭一の目を見つめて、静かにこう言った。

 「もう、止めようか?」

 恭一も、

 「そうだな。これくらいにしとこう。」

と答えた。それ以上やると、どちらかが、或いはどちらとも大怪我をするのがよく分かったからであった。


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空手・拳法物語 供 嵒徂愀嘩」

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 劉博は、機嫌が悪かった。会社で、上司のミスを自分のミスとして処理されたばかりか、社長にそのことで大目玉を食らったからだ。普段なら、仕事が終ると真っ直ぐ新妻の待つアパートに変える劉博だったが、この日は、5時半に退社してしから、学生時代の仲間と連絡を取り、2時間ほどマージャンを打ち、更に別の友達とバーに飲みに行った。

 帰宅したのは、午前2時過ぎだった。アパートに戻ると、妻の美麗が、ふくれっ面でこちらを睨みつけてきた。

 「あなた、今何時だと思ってるの?」

 「今日は、何も言わないでくれ。今日の俺は、機嫌が悪いんだ。」

 「私も機嫌が悪いんだけど・・・・・・・。電話くらいできない?」

 「うるっさいな!早く寝ろよ。」

 「何よ、その言い草?」

 「何だと?亭主が、疲れて帰ってきたのに、そっちこそ、その言い草は何だ?」

 「何よ、偉そうに・・・・・・・。私より稼ぎが少ないくせに。」

 美麗は、ダンナに言ってはいけない一言を言ってしまった。カッとなった劉博は、初めて美麗に手を上げて、思いっ切り彼女の左頬を叩いた。

 正確には、叩いたつもりだった。劉博の放ったビンタをサッとバックステップしてよけた美麗は、左右のストレートパンチを、連続して三発、劉博の顔面に叩き込んだ。

 「ゴツ、ゴツ、ゴツ!」

という美麗の硬い縦拳が劉博の顔面に当る物凄い音が聞こえた。劉博は、思わず顔面を両手で覆い、

 「アイター!お前、何かやってたのか?」

と呻くように言って、その場にうずくまった。

 そうなのである。劉博には、一度も話した事はなかったが、美麗の家族は、代々古式の拳法を受け継いできた家系なのである。美麗も幼い頃から、兄弟に混じって、拳法を修練してきたので、素人の男のビンタをよけて、殴り返すくらい朝飯前なのだ。それ以来、どんなにヒドイ夫婦喧嘩をしても、劉博は美麗のことを殴ろうとはしなくなった。


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空手・拳法物語 機 屮ぅ献瓩蕕譴短辧

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 小学校からの帰り道、鵬宇は歩きながら泣きじゃくっていた。また、悪童連にイジメられたのだ。毎日のように殴られたり、蹴られたりするのでたまったもんじゃなかった。泣きながら、いつも通る公園を歩いていると、誰かが鵬宇に声を掛けた。

 「坊や、どうした?」

 ふと目を上げると、一人の中年男が笑顔で自分を見ている。いつもベンチに腰掛けて、ノンビリ煙草を吹かしているオジサンだった。ときどき、お菓子をくれたりして、自分を可愛がってくれるので、鵬宇はこのオジサンのことが好きだった。

 「また、兄ちゃんたちにイジメられたのか?」

 鵬宇は、何も言わずに肯いた。オジサンは、鵬宇の頭を優しく撫でながら、

 「よーし、じゃあ、オジサンが坊やに殴られないようになる秘密を教えてあげよう。」 

と言った。鵬宇は、思わず、

 「ホント?」

と聞き返した。

 「ああ、ホントだとも。ただし、オジちゃんがこれから坊やに教える事を一年間、毎日やる
 んだぞ。できるか?」

 「うん。できる。僕、もう殴られたくないもん。」

 「よし、じゃあ、オジちゃんについておいで。」

 オジサンは、そう言って、鵬宇を公園の花壇のところまで連れて行った。その花壇は、
半径1mちょっとくらいのレンガで囲ってある丸い花壇だった。

 「坊や、このレンガの上を歩いてごらん。」

 「うん。」

 鵬宇は、そう答えて、レンガの上を両手でバランスを取りながら、歩き始めた。

 「よーし、いいぞ。じゃあ、今度は逆方向に歩いてごらん。」

 「うん。」

 鵬宇は、言われるままに逆方向に歩き始めた。やってみると、結構面白かった。それを見て、満足そうな顔をして笑ったオジサンは、

 「最初は、ユックリでいいんだ。途中で落ちないように、気をつけて歩くんだよ。慣れて来た
 ら、速く歩いてもいい。わかったか?」

と言った。

 「ウン。わかった。」

 それから、鵬宇は、学校帰りに毎日のように花壇の周りを歩いた。正確には、花壇を囲っているレンガの上をであるが・・・・・・

 相変わらず、悪童連のイジメにあっていたが、ときどき公園で会う優しいオジサンの励ましもあって、その練習を毎日続けた。半年ほど経った頃、ある日突然と言った感じで、悪童連のパンチやキックが、鵬宇の体に当らなくなった。鵬宇自身、不思議だったが、連中のパンチも蹴りもスローモーションのようにユックリに見え始めたのである。よけるのは、わけなかった。鵬宇は、相手の攻撃を避けながら、連中を片っ端から突き飛ばした。

 鵬宇は、喜び勇んで、オジサンに戦果を報告しようと、公園に行った。

 「オジちゃん!オジちゃん!オジちゃん・・・・・・」

と叫びながら、鵬宇は、男の姿を探したが、男はどこにもいなかった。どうやら、鵬宇に黙って、どこかに行ってしまったようだ。悪童連には、イジメられなくなった鵬宇だったが、自分を救ってくれたオジサンとの約束を守って、その後もレンガの上を歩く練習を続けた。元々、運動が苦手だった鵬宇であったが、いつの間にか、スポーツ万能少年になっていた。

 鵬宇は、大人になってから中国武術を学び始めた時、公園でオジちゃんが自分にやらせていた訓練が、八卦掌の走圏である事に気がついた。


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因果の法則

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 お久しぶりです。お元気でお過ごしでしょうか?今日は、かつて一緒に瞑想の修行をしていたN君の思い出を書きたいと思います。但し、ちょっと血生臭い話を書くので、気の弱い読者の方や女性の方は、ここでブログを閉じられて下さい。
 
 

 この段落を読み始められた読者の方は、そんな話でも聞いてみたいとお考えの方だと判断して、さっそく話しを進めていきたいと思います。N君は、小学校4年生から中学2年生まで松涛館系の空手を修行しました。しかし、空手というより喧嘩が得意なタイプで、組み手の際中にボクシングのジャブのような動きや首締めなどをするのでしょっちゅう先生に怒られていたそうです。兎も角こと闘争に関する限り天才と言っても過言ではない男でした。中学2年までは随分激しい気性だったようで、何度も喧嘩を繰り返し、人にも随分怪我をさせたようです。
 

 しかし、空手を止める直前の出来事が、彼の人生を変える一つの大きなキッカケになります。以下、彼が私にしてくれた話をそのままここに記載します。
 

 ある日、休み時間になって彼の隣に座っていたクラスメイトがトイレに行きます。彼がふと横を見るとそのクラスメイトの日記が机の上に置いてあるのが目に入ります。彼は、あろうことか、その日記を開いて読み始めます。するとまもなくそのクラスメイトが戻って来て「お前、何で人の日記を勝手に読みようとか?」と言いながら彼の横面を思い切り殴ります。彼も「いきなり殴らんでもよかろうもん」と言い返しながらクラスメイトの顔面を正面から殴り返し、さらに足払いをかけて倒します。転倒したクラスメイトは、下から彼の顎を狙って真っ直ぐ蹴ってきます。彼はそれをサッとよけて逆にクラスメイトの顔面を思いっきり踏みつけます。クラスメイトは脳震盪を起こして気絶します。
 

 その後の事は、皆様ご想像の通りです。N君は先生から大目玉をくらい、両親は学校に呼びつけられ、クラスメイトはその日以来彼と口を利かなくなります。しかも、ことはこれだけでは済みませんでした。その一週間後のことです。自転車で彼が自宅近くを猛スピードで走っている時、自転車の前輪が歩道の縁石にぶつかり、彼は前方に5メートルほど放り出されます。そして額を嫌というほど歩道にぶつけます。それから1ヶ月ほど彼の額はドッジボールのように巨大に腫れ上がったままだったそうです。
 

 彼は、この時、本能的にこの事故は自分のやったことが自分に返って来たと直観したと言います。この事件以降、彼は喧嘩をするのをピタッと止めたそうです。狼のような直感力を持つ彼だからこそ、それまでの生き方を続けると危ないと悟ったのかも知れません。
 
 


 それから月日は流れ、彼は大学に入学し、陸上競技を始め、やがて3年生になった時キャプテンに就任します。そして、キャプテンとしての仕事を全て終えた日、彼は同輩や後輩たちと「追い出しコンパ」に出掛けます。一軒目の店を出て、二次会に行くために皆で和やかに話しながら次の店に向かっていました。この時彼は、皆の最後尾で一人歩きながら、「やれやれこれで俺のキャプテンとしての仕事も終わった」と内心ホッとしていたそうです。

 そんなことを考えながら歩いていると、彼は前方の様子がオカシイことに気付きます。路上に同輩や後輩たちがマグロのように倒れているのです。もうそんなに酔っ払ったのかと思い急いで現場に駆けつけると、立っている後輩たちが「N先輩、さっき変な奴がスパナで皆を殴り倒したんですよ」と信じられないような事を言うではありませんか。ふと前を見ると、スパナを持ったガッシリとした体格の男ともう一人小柄な男が車に乗り込もうとしています。
 

 キャプテンとして、彼らをこのまま帰すわけにはいきません。N君はすかさず彼らに「ちょっと待たんですか。人を殴り倒しといて黙って帰るとですか?」と言います。
 

 車に乗り込もうとしていた大柄なスパナ男は血走った眼でN君の方を振り向き、「ナニ?」と言ッたかと思うといきなりN君にスパナで滅茶苦茶に殴り掛かってきます。不意をつかれたN君が自分の頭に連続的に振り下ろされるスパナを辛うじてよけながら後退すると、男はN君を思いっきり蹴飛ばします。蹴りは小柄なN君の右肩に当たり、N君の右肩は脱臼します。
 

 この瞬間、彼の中にある確信が生まれます。それは「今日は、戦っていいんだ」というものでした。キャプテンとして、後輩に怪我をさせた彼らを警察に突き出し、彼らに謝罪と慰謝料・治療代などを要求しなければなりません。
 

 そう覚悟を決めた彼は、まず肩に掛けていたショルダーバッグをユックリ下ろし、左手で右肩を掴んで、脱臼した関節をゴキッと言う音とともに元に戻します。
 

 それから彼は、やや体を開いて両手で手刀を作り、下段に構えます。その時既に私と瞑想の実習をしていた彼は、「よし、今日は、ひとつ“無”で動いてやろう」と決心します。そう思って相手と対峙すると恐怖心は、全くといっていいほど湧いて来なかったと言います。

 文章に書くと長くなりますが、これらのことは全て一瞬で起きたことです。話を二人の対決シーンに戻します
 

 N君が構えを取った途端、男は唸り声を上げながらN君の頭上から彼の後頭部に向けて腕をしならせるようにスパナを振り下ろしてきます。N君は咄嗟に体を沈めて男の攻撃を躱します。必殺であるはずの攻撃を見事に躱された男は、そのままもんどり打って倒れます。
 

 再び、二人が向き直り、対峙します。男は肩で息をしながら、スパナを額のところに構えています。N君がよく見ると、男が怯えているのが分かります。再び男が獣のような動きでN君に襲いかかります。そして、N君の頭に物凄いスピードでスパナが振り下ろされます。周囲でことの成り行きを見守っていたN君の同輩や後輩たちには、スパナが彼の頭の直前まで来るのが見えたそうです。その瞬間、みんな「やられた!」と思い、思わず眼を閉じてしまいます。そして、恐る恐る眼を開けると、不思議なことにN君は立ったままで、男はスパナを手から離して地面に倒れています。
 

 N君によると、2度目にスパナが自分の頭に振り下ろされた時、相手の動きがスローモーションのようにユックリ見えたそうです。この時、彼の中では、戦っている相手や周囲の人間たちとは違う時間が流れています。「ああ、スパナが来る、来る、今来てる。でも、こいつの腹は、がら空きだ。今前蹴りを出せば綺麗にはいるな。よし前蹴りを入れよう」と言った感じで、ドッコイショと足を上げると彼の足の裏が相手の腹部に吸い込まれて行ったそうです。腹にN君の前蹴りを食らった男は後ろに吹き飛びます。男が後ろに蹴り飛ばされる時もN君にはユックリに見えたそうです。
 

 暫し、異次元の世界に生きていた彼ですが、男が倒れているのを見て、我に返ります。彼は、周囲にいた後輩たちに「おい、警察に電話しろ!」と叫びます。「もうしました」と言う声が聞こえると、倒れていた男をもう一人が助け起こし、二人は慌てて車に乗り込み逃走します。
 

 後に、警察でN君が聞いたところによると、この二人は警察もマークしていた覚醒剤の常用者で何度も傷害事件を起こしていたそうです。警察で事情聴取を受けていた時、担当の刑事さんが「あんた頑張ったねー。もしかしたら殺されとったかも知れんとよ。いい度胸しとるばい。刑事にならんね」とN君に言ったそうです。
 

 同じように、空手を使って人を蹴飛ばしても、前半のN君と後半のN君とでは全く違います。前半は、周囲の大顰蹙を買った彼ですが、後半の彼は陸上部の仲間を始め刑事さん達からすら賞賛されています。
 

 武術を修行すると言う事は、ある意味「力」を手に入れることです。「力」それ自体は善でも悪でもありません。大事な事は、手に入れたその「力」をどう使うかということでしょう。「力」は正しく使わないと、結局は前半のN君のように自分自身に災厄となって返って来ます。この事はこの世に存在するあらゆる「力」、例えば権力や軍事力についても同じ事が言えるかも知れません。

 また、お会いしましょう。

 ※後半部のN君の武勇伝は、非常に特殊な例であります。大変危険なので、決して
  真似しないで下さい。 


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福岡武道物語 番外編 掘  Y君との思い出」

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  いらっしゃいませ。(*^_^*)Dragon World (龍の世界)へようこそ。今日もユックリ遊んでいって下さい。
 
 Y君は、私の大学時代の後輩です。彼は、大学で少林寺拳法部に所属していました。体育館で私たちが練習しているのを見て話しかけてきたのがきっかけで、一緒に練習するようになりました。今朝、久しぶりに彼の顔が頭に浮かんだので、彼との思い出を書いてみたくなりました。
 
 このY君、とても小柄な人でした。多分身長は160センチ前後だった思います。性格もおとなしく、優しい人でした。しかし、自分より遥かに大柄な相手の間合いにも、臆せず入り込んで突きを入れることのできるような豪胆な人でもありました。
 
 彼が大学を卒業して仕事をしていた時のことです。小柄でおとなしい性格だったこともあって、組みし易しとみられたのでしょう。職場である人から随分陰湿なイジメに遭ったそうです。初めは我慢していた彼でしたが、温厚な彼の堪忍袋の緒が切れる日がきます。
 
 あまりに酷いことを言われたので、とうとう彼は切れてしまったのです。カッとなった彼は目の色を変え、彼に向かって悪態をつき続ける男に向かって、拳法の構えを取りながら、ジリ、ジリっと間合いを詰めていきます。Y君の気迫に押された件の悪態男は、少しずつ後ずさりし始め、部屋の壁に背中がぶつかります。そして、そのままずるずると下にしゃがみ込んだ男はY君の両足に抱きつき、哀れな声で「話し合おう。」と言います。そのことがあってから、Y君はその人には虐められることはなくなったそうです。
 
 このお話は、あまり人に没義道なことばかりしていると怖い目に遭うということと、普段優しい人が怒るととても怖いということを教えています。

 
 さて、このY君にはお姉さんがいました。このお姉さんが妊娠なさってご実家に帰っていらっしゃった時、Y君はよく家の裏庭で拳法の構えや歩法の練習をしていたそうです。変な格好をして拳法の練習をしていたY君を見てお姉さんは、「あんた、私の目の前で、あんまり変なことせんといてよ。私はお腹に子供がおるっちゃけん、胎教に悪いやない。」とおっしゃったそうです。
 
 それから暫くしてお姉さんは、元気な女の子を出産なさいます。この女の子の名前は、そうですねー、仮にE美ちゃんと呼ぶことにしましょう。このE美ちゃん、とても元気な女の子で、男の子のように活発です。お腹に入っているときに、お母さんが拳法の練習を目にしていたせいでしょうか。やたらに蹴ってくるそうです。ある時、Y君が畳の上に寝ていたE美ちゃんに、「おーい、E美」といって上から手を出すと、E美ちゃんは「おいちゃんの顔を蹴ってやるー!」と言いながら、下から両足でY君の顔を蹴ってきたそうです。さながら、蟷螂拳の穿弓腿のようです。
 
 ある日、E美ちゃんはY君やY君のご両親と一緒に車に乗って出掛けます。E美ちゃんは助手席に座っていたそうです。そして、車は走行中に急停止をします。シートベルトを着用していなかったE美ちゃんは、助手席から前に飛び出し、ゴツンという異音とともに頭をしたたかにフロントグラスにぶつけてしまいます。産まれてから一度も産声以外の泣き声を上げたことのなかったE美ちゃんですが、この時はさすがに泣くだろうと皆思ったそうです。ところが・・・。
 フロントグラスからゆっくり頭を離したE美ちゃんは、頭を手の平で抑えながらニッコリ笑って、こう言います。「ア?!  ちょっとー、痛かったかな?」(*^_^*)

 
 人間って、ホントに面白いですね。Dragon World (龍の世界)楽しんで頂けましたか?また、お会いしましょう。


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福岡武道物語 番外編 供  峽萋」 

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 二人は、互いの目を見詰め合ったまま微動だにしません。そこへ中年の男性が通りがかり、先輩の方に向かって「君たち喧嘩は止めなさい」と言います。先輩は、相手から目を離すことなく「あっち、あっちに先に止めるごと言うて下さい」と言い返します。その男性も諦めて行ってしまいます。      
 

 そして、二人はユックリ動き始めます。前へではありません。少しずつユックリと相手から目を離すことなく、実にユックリと後ろへ下がり始めます。そして、お互いの間合いの外へ完全に出た瞬間に、スーッと振り返ってそのまま反対方向へ歩き始めたのです。
 

 固唾を呑んで見守っていた二人の子分たちは、慌てて二人の後を追いかけます。そして、自分たちのボスにこう問いかけます。「どうしてアイツをやっつけなかったんですか?あんな奴、〇〇さんなら簡単に勝てたでしょう?」

 二人は、子分たちに異口同音にこう答えます。「アイツの悪口を言うな。やってたら、こっちがやられてたかも知れん。」とお互いに相手を庇います。

 この話には、後日談があります。この事件の一ヶ月くらい後、二人は偶然にも天神(福岡市の中心街)で再会します。二人はお互いの姿を認めると、近づき「イヤー、久しぶりですねー。元気ですか?」「うん、お蔭様で」「よかったら、これから飲みに行きませんか?」「ああ、いいですねー。行きましょう。」とすっかり意気投合した二人は、先輩の行きつけの店に行って飲み始めます。以下その時の二人の会話です。私が、先輩から聞いた話をそのままここに記載します。

  

    「いやー、お宅は強いですねー。何かやってらっしゃるでしょう?」
   
 

  「ちょっと、拳法をね。いや、お宅こそ凄いよね。危うくこっちが殺されるところ
  でした。」
  
 

  「いやいや、それはこっちのせりふですよ。」

  


  「あのまま、続けてたら、どっちかが大怪我するか、死んでたかも知れませんね。」

  


  「いや、どっちもかも知れませんよ。」

  


  「相打ちになってたら、そうなってたかもしれません。」

  


  「やっぱり、これからは、仲良くしないといけませんよね。」

  


  「そうですよ。友達になったんですから、乾杯しませんか?」

  「いいですね。乾杯!」「乾杯!」

 

 それから、二人は親友になり、武術を使って喧嘩を売って回ることもピタッと止めたそうです。みんな、大怪我したり、死んだりしたくないんです。そんなもんです。こういうところが、アクション映画と現実の違うところです。久しぶりのDragon World(龍の世界)楽しんでいただけましたか? 


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福岡武道物語 番外編 供  峽萋」 

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  いらっしゃいませ。(*^_^*)Dragon World (龍の世界〉へようこそ。今日もゆっくり遊んでいって下さい。
 
 これは、39年前のお話です。私の先輩で空手四段の人がいました。この人は3度の飯より喧嘩が好きで、いつも6,7人の取り巻きを連れて天神(福岡市の中心街)や中洲(九州最大の歓楽街)界隈を練り歩き、目ぼしい餌食を見つけては、喧嘩を売って空手で相手を叩きのめすという豪傑した。そんな彼の破天荒な人生もやがて終わりを告げることになります。ある日、彼がいつものように子分を連れて街中を歩いていると、向こうから同じような風体のグループが歩いて来ます。彼は、心の中で「よっしゃ、今日はこいつらを俺の空手の餌食にしてやろう」と心の中で呟きます。二つのグループが道の真ん中で出会います。


  「おい、俺らが歩いてんだ。ちゃんと挨拶して道を空けろ!」


  「なーに、ふざけた事ぬかしようか。お前らの方がのかんか!」


  「よーし、喧嘩するか」


  「よかよ。タイマン勝負たい。俺がタイマンはっちゃるけん、そっちも頭ば出しや
  い。」    


  「ここは、人の多か。場所ば変えろう。」


  「よかぜ。」


 と言ったやり取りの後、先輩のグループと先方のグループは人通りの少ない場所に移動します。そして、向こうから、一人の男が出てきます。先輩は「お前が、そっちの頭か?」と聞きます。相手は「ゴチャゴチャ言わんで、早(はよ)かかってきやい」と言って前に出てきます。

 先輩はいつものように手を開いて右手を前に出し、左手を右手の脇に添えて構えます。ふと見ると、向こうも右の拳をまっすぐ突き出し左の拳を右のわき腹に隠すような妙な構えを取っています。「しまった!こいつも何かやりようばい」。先輩は、構えたまま顔が青ざめます。

 武道をやっているもの同士が、表でやりあえば、当然、急所の狙い合いになり、命のやり取りになってしまいます。向こうも気持ちは同じだったようで、顔が青ざめているのがわかります。しかし、構えを取ってしまった以上、今さら止めることはできません。構えを解いてしまえば、相手が攻撃してきた時に対処ができないからです。 
 

 二人が対峙したまま、不気味なほどに静かな時間が流れます。(続く)

  
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