ヌミノースな世界 68  ― 続・犬

JUGEMテーマ:ノンフィクション

 

★この記述には、動物虐待を推奨する意図は、ありません。

 

 

 40歳になる少し前に、福岡市の保健所で警備員として働いていた。ある朝、トイレに行って、警備室に戻ろうとしていると、玄関で男性職員が二人、騒いでいた。

 

 何事かと思い、その場に駆けつけると、子犬が二人に向かって牙を剥きだして唸っていた。

 

 「どうしたんですか?」

 

 「いや、この犬がいきなり玄関から入って来たんですよ。」

 

 「分かりました。じゃあ、私が捕まえて、どっか遠くに捨てて来ます。」

 

 「噛みつきますよ。」

 

 「ああ、そうですか。多分、大丈夫だと思いますよ。」

 

 この職員は、私が武道の経験者だとは知らなかったので、心配してくれたようだ。まあ、子犬だし、油断しなければ、大丈夫だろうと思い、捕まえようとした。

 

 「ウウーーー、ワン!ワン!ワン!」

 

 子犬は、激しく唸ったり、吠えたりしながら、私の手を噛もうとした。私は、フェイントをかけながら、それを全て躱して、子犬の首根っこを捕まえて、頭をパチッと叩いた。

 

 「こら、大人しくしろ。こんな所に入って来たら、怒られるよ。」

 

 そう言って、私は、子犬を放してやった。すると、子犬は、仰向けになって、胴体をくねらせながら、また唸り声をあげた。職員の男性たちは、

 

 「こいつ、服従の姿勢を取ってるくせに、唸ってやがる。」

 

 「そうたい。矛盾した奴。どっちかハッキリしろよ。」

 

と言っていた。私は、外に連れて行くつもりで、その子犬を抱きかかえようとしたが、また子犬は、私の手に噛みついて来た。勿論、私が犬に自分の手を噛ませることは無かった。犬に噛まれるのは、一回だけで十分だ。

 

 だが、今度は、少しお仕置きをしてやらないといけない。私は、噛みついて来る子犬の口を避けながら、右鶏口拳で犬の首の急所を軽く突いた。(※鶏口拳=五指を伸ばして指先を一つにくっつけた形。鶏の嘴に形が似ている事から、この名称になった。)

 

 子犬は、「キャン」と鳴いて、大人しくなった。私が、

 

 「ねえ、もうケンカすんの止めようよ。」

 

と言うと、子犬は、急に大人しくなり、私に近寄って来た。私が、手を出すと、今度は噛まずに手を舐めて来た。頭を撫でると、尻尾を振り出した。男性職員たちは、

 

 「あ、鷹野さんになついたじゃないですか?」

 

と言って、驚いていた。多分、この子犬は、人間にイジメられてたので、防衛本能から人間に対して牙を剥いていただけだったのだろう。大人しくなったので、その後は、保健所から離れた所へ連れて行って、放してやった。

 

 

 この話を書いていて、もう一つ、犬に関する事件を思い出した。

 

 あれは、30歳になる少し前の事だった。当時は、失業して仕事を捜し歩く毎日だった。ある時、面接を受けるために、初めて来た場所を歩いていた時、通り抜けが出来る道だと思って、右に曲がった。その道は、少し曲がっていて、奥まで行かないと袋小路だと分からないような道だったので、奥まで歩いて行きどまりだと気が付いた。

 

 元来た道に戻ろうとした時、右側にあった大きな家の門の鉄格子の隙間から、かなりデカいジャーマンシェパードが飛び出して来て、私に向かって牙をむいて唸り出した。

 

 道を塞がれる形になったので、逃げ場が無くなってしまった。私は、軽く両手を上げて、

 

 「おお、ヨシヨシ。」

 

と言って、シェパードを宥めようとしたが、シェパードは、私を睨みつけて激しく吠え始めた。飛び掛かるような姿勢を取り始めたので、本気で掛かって来るのが、本能的に分かった。

 

 こんなデカい犬と、あまり戦いたくはないが、やらないと、こちらがやられる。上げていた両手をそのまま拳法の形に変えて、犬に向かって構えを取る。

 

 噛んで来るところは、一番近い脛か膝、次に可能性があるのは、股間か喉だ。一瞬、子供の頃に犬に噛まれた時の悪夢が蘇る。あんな痛い思いをするのは、二度とゴメンだ。可哀想だが、殺すつもりで戦うことにする。

 

 だが、犬は毛皮に体を包まれているし、筋肉も骨も人間とは比べ物にならないくらい丈夫だ。急所を狙うしか、私には勝ち目はない。シェパードは、私の足に噛みつく姿勢を何度か見せている。

 

 恐らく、下にフェイントをかけといて、喉笛に噛みついてくるつもりだろう。フェイントにひっかっかる振りをして、ワザと閉じていた構えを開く。犬は、私の誘いに引っ掛かり、いきなりジャンプして喉笛に食いついて来た。

 

 左足を引いて、体を開き、犬の左目を狙って右貫き手を放つ。指先は、左目には入らずに、後顎の下に入る。私は、そのまま犬の顎の骨を掴んで持ち上げ、犬を背中からアスファルトに思いっ切り叩きつけた。(※貫き手=親指以外の指の先を揃えて、敵の目や喉を突く技)

 

 犬は、

 

 「ギャン!」

 

と叫んで、地面から跳ね上がった弾みを利して、そのまま体を捻り、鉄格子の隙間から、元来た場所に逃げて行った。投げつけた後、喉を踏みつけて止めを刺すつもりだったが、犬が逃げたので、それは叶わなかった。お陰で、犬を殺さずに済んだので、ホッとした。

 

 それにしても、犬は強い。これが人間だったら、背中からアスファルトに叩きつけられた瞬間に息が詰まって、暫く動けない。

 

 私は、犬が戻って来るかも知れないので、犬が逃げ込んだ門の方をジッと見つめながら、ユックリと後じさり、その袋小路を出た。

 

 今も、あの道に入ってしまったことを後悔している。あのシェパードは、番犬としての役割を忠実に果たしていただけだったのだから、出来ることなら、痛い目に遭わせたくはなかった。初めて来た所を歩くときは、なるべく脇道には入らない方がいい。

 

 

 

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ヌミノースな世界 67  ― 被害妄想

JUGEMテーマ:ノンフィクション

 

 三十代後半から、下駄を愛用するようになった。住んでいたアパートの近くに、下駄を安く売ってくれる呉服店があったので、一足履き潰す度に、その店で新しい下駄を購入していた。

 

 ある晩、外で友人と飲んで自分の住んでいたアパートに帰っていた時の事だ。確か時刻は、8時頃だったと思う。

 

 いつものように、「カラン、コロン」と下駄の音を響かせながら、自宅に向かって歩いていると、私の7,8メートルほど先に、20代半ばくらいの女性が歩いているのに気が付いた。

 

 彼女は、大通りから左に曲がった。私と同じ方向である。私も、同じ道を左に曲がった。彼女は、その道から更に右へ曲がった。これも、私と同じ方向である。「へーー」と思いながら、私も右に曲がった。

 

 ここで、妙な事が起きた。彼女が、急に走り出したのである。「あれ?なんか勘違いしてない?」と思ったが、私には、その誤解を解く術がない。彼女は、全速力で私が住んでいたのと同じアパートの玄関に走り込んだ。私は、

 

 「だから、そこは、俺の住んでるアパートだって!」

 

と大きな声で言ったが、彼女に聞こえたとは思えない。

 

 随分昔の事なので、ハッキリ覚えていないが、この出来事が起きる前後に、このアパート内で押し込みレイプ未遂事件が起きていた。その時この事件が未遂に終わったのは、私の部屋の真上に住んでいた大学生が、たまたまその現場に居合わせて、男を怒鳴ったからである。男は、すぐに逃げて行ったそうだ。もしかしたら、彼女は、その時の事件の被害者だったのかもしれない。或いは、その事件とは全く無関係に、私の下駄が出す音をストーカーか強姦魔の足音だと勝手に勘違いしたのかもしれない。

 

 

 概して、女性は、男性に比べて根拠のない被害妄想を抱く人が多いように思う。もし、本当に強姦しようとするのなら、自分から離れた所を歩いている女性を後ろからつけたりはしない。この時のように、相手に警戒されて逃げられる可能性が高いからである。現に、押し込み未遂事件の犯人は、隠れていた壁の影から出て来て襲いかかっている。

 

 

 

 それで一つ思い出した。20代前半の頃のことである。仕事が休みの日に、福岡市郊外の山に登った。暑くもなく寒くもなく、ちょうどいい季節だった。その山の頂上から見える素晴らしい眺望を楽しみにしながら歩いていると、上から40代後半くらいの女性が歩いて来た。

 

 すれ違う時に、私が、

 

 「コンニチハ」

 

と挨拶すると、彼女は、私をキッと睨みつけて、

 

 「近づいたら、大声だすわよ!」

 

と言い放った。

 

 (「ハア?どうして、オレが、あんたんごたるオバタリアンば襲わないかんと?」)

 

と内心思ったが、無視してそのまま登り続けた。あまりにバカバカしいコメントだったので、相手にする気にもなれなかったからだ。彼女の心ない一言のおかげで、せっかくの休日が台無しになってしまった。今、思い出しても、腹が立つ。ああ、まだ悟りは遠いようだ。

 

 それは、それとして、この時の彼女の言動は、非常に危険である。もし、私が、ホントの強姦魔か潜在的なレイプ魔だったら、挨拶する前にその気が無かったとしても、彼女の言葉で、逆にその気になったかもしれないからだ。

 

 第一、そんな山の中で大声を出したとしても、誰かにその声が聞こえる可能性は、殆ど無いに等しい。現に、その時、登山道には、我々が歩いていた位置からは、上にも下にも人影は見えなかったのである。

 

 確かに、女性が襲われた時に、大声を出すことができれば、助かる可能性は高い。だが、それは、時と場所による。

 

 この時の女性も、もしかしたら、過去に性的被害にあった経験のせいで、被害妄想を抱かざるを得なかったのかも知れない。しかし、それなら、なぜ山の中を一人で歩いていたのかという疑問が残る。彼女の言動は、自己矛盾の極みだ。

 

 

 それで、もう一つ、思い出した。これは、私が経験した事ではなく、友人から聞いた話だ。

 

 確か、彼が大学の法学部を卒業して5年ほど経ったときの事だったと記憶している。

 

 ある晩、仕事を終えて帰っていると、自分の前をOL風の女性が歩いているのに気が付いた。その翌日も、同じ女性が前を歩いていた。

 

 実は、彼の仕事は、いつも定時で終わる仕事だったのだ。恐らく、その女性も、そうだったのだろう。毎晩、地下鉄の駅から地上に出ると、いつも彼女が前を歩いていた。彼女の住まいは、地下鉄の駅から10分ほど歩いたところにあるアパートだった。友人は、彼女がアパートに入った後、その前を通り過ぎて、そこから更に15m程歩いたところにある実家に帰っていた。

 

 そんな日が一ヶ月ほど続いたある晩、異変が起きる。

 

 いつものように、定時で仕事を終え、地下鉄の駅から地上に出ると、やはり彼女が前を歩いていた。だが、この日は、いつもと違っていた。そろそろ、彼女のアパートが見えて来るかなと言う時に、いきなり彼女が、

 

 「痴漢、チカンよー!助けてー!」

 

と叫んで走り出したのだ。「え、なんだ?」と当惑していると、彼女のアパートから体育会系の学生が、飛び出して来て、彼の胸倉をつかんだ。

 

 「おい、何してる?」

 

 「何してるって、家に帰ってるだけだ。放せ、この野郎!」

 

 友人は、そう言って、その学生の両手首を強く握りしめたそうだ。彼は、華奢な体つきをしていたが、前腕だけが異常に太く、生まれつき握力がかなり強かった。多分、握力90キロ近くあったはずだ。学生は、顔を苦痛に歪ませて、すぐに手を放した。

 

 「ウソよ。」

 

 「ウソ?なんで、そう言い切れると?俺んちは、すぐそこやん。

  自分の家に帰るとの、どこがいかんと?」

 

 「だったら、証拠を見せなさいよ。」

 

 「いいよ。」

 

 友人は、そう言って、持っていたカバンの中から、その日、たまたま持っていた区役所からの郵便物と運転免許証を彼女とヒーロー気取りの学生に見せた。当時は、まだ個人情報の扱いにうるさくない時代だったので、友人も気兼ねなく、その情報を二人に開示する事が出来た。

 

 「ほら、見てん。あんたの住んでるアパートのすぐ近くやろ?」

 

 学生は、すぐに大人しくなったが、エキサイトしてる彼女は、彼の住所を知っても、引かなかった。

 

 「そんなの言い訳よ。いつも、同じ時間に、私のあとつけてたじゃない。」

 

 「ハア?あのね、オレの勤めてる会社は、定時であがれるの。退社時間になって

  地下鉄に乗ったら、この時間に、ここを歩く事になるの。分かる?お宅も、同じ

  じゃないの?」

 

 「警察、呼ぶわよ。」

 

 「いいよ。呼べば。俺のタイムカード見たら、俺が今、この時刻にここを歩いてる

  必然性が証明されるけんが。呼べよ。早よ、呼びやい。その代り、それが証明されたら、

  今度は、オレがそっちを名誉棄損で訴えるぜ。」

 

 「・・・・・・」

 

 「どうした?さっきまでの勢いは、どこ行った?警察、呼べよ。」 

 

 その頃になると、その近辺の家から、騒ぎを聞きつけた人たちが出て来て、友人に話しかけて来たそうだ。

 

 「○○ちゃん、どうしたと?血相変えて。」

 

 「いや、この女がいきなり俺をチカン呼ばわりしたんで、抗議してたとこなんですよ。」

 

 「あなた、それは、あなたの誤解よ。この子は、そんな事するような子じゃないから。」

 

 友人によると、ここら辺になってから、ようやく彼女は、自分の勘違いに気付いたそうで、その後は、急に大人しくなって、

 

 「ゴメンナサイ。私の勘違いでした。」

 

と深くお辞儀をして、友人に謝罪したそうである。友人も近所の人たちに宥められて、矛を収めたそうだが、ヘタすれば、冤罪事件になるところだったので、友人が激怒したのも無理はない。

 

 

 性犯罪は、許すべきではないが、無実の男性が、チカン冤罪事件で一生を棒に振るような事態だけは、避けねばならない。ここで紹介した最初の事件の後、職場で、ストーカー被害にあっているという女性と話す機会があった。

 

 その女性に、

 

 「自分をつけている人の顔をちゃんと見ましたか?」

 

と尋ねると、彼女は、

 

 「いえ、とんでもない。怖くて、顔なんか見れません。」

 

と答えた。大体、こんなもんだ。顔を見ていないのなら、ホントにそういう意図を持っているかどうかも、確認する事ができない。

 

 知り合いの女性は、夜帰宅中に自分の後をつけている男に気が付いた。その男をチカンだと思った彼女は、後ろをチラッと見ただけで、そのまま速足で自宅に帰った。その直後に帰って来たご主人に、

 

 「お前、どうして走って帰るとや?」

 

と言われた。彼女がチカンだと思い込んでいた男は、自分の夫だったのだ。こういう話は、枚挙にいとまがない。よく見ないから、正常な判断ができなくなるのだ。

 

 職場で聞いたストーカー被害の話も、彼女の勘違いのような気がしたので、最初の事件の事を彼女に話して聞かせた。彼女はゲラゲラ笑いながら、それを聞いていた。

 

 それから、3ヶ月ほどして、また彼女と話す機会があったので、ストーカーについて尋ねると、案の定、

 

 「鷹野さんが、仰ってたように、私の誤解だったって事がわかりました。」

 

との答えが返ってきた。上に紹介した三番目の事件とほぼ同じパターンだったようだ。

 

 

 

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ヌミノースな世界 66  ― 宗教

JUGEMテーマ:人生論

 

 確か、私が高校生くらいの頃の事だったと思う。それまで、「宗教」と言う言葉を聞いたり、宗教団体に勧誘されたりすると、

 

 「あげなもんは、現実逃避してる奴らが、やるもんだ!」

 「腐れ宗教にやら、誰が入るか!」

 

などと激しい拒絶反応を示していた父が、コロッと宗旨替えをして、母と一緒に「M」という神道系の新興宗教団体に入信した。父も母も、苦しかったんだと思う。だが、私は、父のあまりの節操の無さに対する反発心とその団体の教義のバカバカしさから、逆に無神論者になってしまった。(20代半ばまで)

 

 何度か、その教団の研鑽会のようなものに連れて行かれたが、まだ若く未熟だった私は、団体の人たちに、

 

 「僕は、そちらの仰ってる事を全然信じてませんから。」

 

とハッキリ言った。今は、父に対しても、話をしてくれた教団の人に対しても、随分失礼な事をしたと反省している。ただ、両親に宗教を押し付けられるのだけは、どうしても我慢ならなかった。顔を潰される形になった父は、その後、私にその宗教について何も言わなくなった。

 

 

 今でも、「宗教って、なんだ?ホントに必要なのか?」と言う疑問は消えていない。

 

 確か、15年ほど前の事だったと思う。福岡市西区にある山の中に水を汲みに行った時の事である。現地に到着すると、15人ほどの人たちが列を作って、自分たちの番を待っていた。列の横には、20個ほどのポリタンクが、ズラッと並べてあり、最前列で一人の中年男性が、水を汲んでいた。

 

 そして、水汲み場の横にある御堂からは、読経している女性の低く大きな声が聞こえてくる。5分ほど、その読経は続き、それが終わると、お堂から一人の中年の女性が出て来た。彼女は、ニコニコ笑いながら、待っている人たちと世間話を始めた。どうやら、並べてあったポリタンは、彼女たちの物のようだった。

 

 水汲み場には、「大量の水汲みは、ご遠慮下さい。」と書いてあるにも拘らず、その夫婦は、全く悪びれる様子もなく、待っている人たちと2,30分ほど世間話を続け、全てのポリタンに水を汲み終わり、それらをワンボックスカーに乗せて、去って行った。

 

 二人が去った途端、並んでいた人たちは、口々に、

 

 「常識ないわねえ。あの人たち。」

 

 「そうですよねえ。」

 

と文句を言い始めた。当たり前だ。「何も言わない」というのは、「何も思ってない」という事ではないのだ。あの女性は、一体何のために宗教をやってたのか?今でも、不思議でならない。お経さえ唱えていれば、何でも許されるとでも思っていたのか?宗教は、免罪符ではないのだ。

 

 あれだったら、常識を弁えた無神論者たちの方が、まあだマシである。彼らは、造物主に対する畏敬の念などは持って無いかもしれないが、少なくとも他人を不快にするような行動は取らない。

 

 

 カール・マルクスは、「宗教は、アヘンである。」と喝破した。ある意味で、彼の言葉には真理がある。宗教を狂信することで、現実が見えなくなるのは、あまり健全とは言えない。

 

 20代の前半に、知り合いに誘われて、当時付き合っていた彼女、男性の友人、そして私の三人で某宗教団体の礼拝に参加した事がある。初めに長い髭を生やした初老の男性が、宗教的な講話をした。大した話ではなかったが、ここまではよかった。ところが、その後が、いけなかった。その男性が、

 

 「では、今から『祈り』を始めます。」

 

と言った途端に、そこにいた5,60人の男女が、一斉に、腕を激しく振り、体を大きく揺すりながら、

 

 「おとうさまーーーー!」

 「天のおとうーーさまーーーー!」

 「ダッ、ダ、ダ、ダ!」

 「愛しております――――――、おとうさまーーーー!」

 

などと大声で絶叫し始めたのである。中には、全く意味不明の言葉を喚き散らしながら、大泣きしている女性もいた。それが、10分から15分ほど続いた。

 

 正直言って、我々三人は、ゲンナリしてしまい、「ヤバいところに来てしまった!」と言う後悔の念しか持てなかった。この過激なパーフォーマンスが終わった後、たった今やり終えたばかりの『祈り』に自己陶酔しているとしか思えない人たちが、次から次へと私たち三人の元に来て、笑顔で握手を求めて来た。一応、その場を取り繕って笑顔で握手に答えたが、三人とも、「二度とここには、来たくない。」という思いだった。

 

 結局、この事が原因で、私たちをその教団に連れて行った人とは、縁が切れた。あの教団の人たちも、現実があまりにもシビア過ぎて、苦しくて苦しくて堪らなかったんだと思うし、他にその苦しみを解消する方法を見つけられなかったと言うのも理解できる。理解はできるが、ハッキリ言わせてもらって、気持ち悪かった。現代の若者風に言えば、「キモイ!」の一言に尽きた。

 

 あの『祈り』は、一種の「カタルシス療法」とも捉えることが出来るが、私には、単なる集団ヒステリーとしか思えなかった。この記事を書く際に、この教団のホームページを覗いてみたが、『祈り』の動画を見つける事は、出来なかった。二度と関わりたくないというのが、私の本音である。

 

 信教の自由とは、特定の宗教を信じる自由であるとともに、特定の宗教を信じない自由でもあるのだ。

 

 

 

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ヌミノースな世界 65  ― 夜道

JUGEMテーマ:ノンフィクション 

 

 私が小学校5年生の頃、近所で変質者が出没した事があった。

 

 うちの風呂は、表通りに面しており、小さな木戸を開ければ、すぐに道が見える作りだった。最初はガス風呂ではなく、薪風呂だったので、引越して来たばかりの頃は、母がよく外から湯加減を尋ねて来ることがあった。

 

 ある晩、私が風呂に入っていると、外で足音が聞こえたので、

 

 「誰?お母さん?」

 

と聞いたが、何も答えない。その時は、既にガス風呂にかわっていたので、外に人が立っていること自体変である。確かめようと、木戸を開けてみたが、誰もいなかった。それから、暫くして、近所の女性たちが入浴中に中を覗かれる事件が多発した。それで、ウチの風呂場の外に立っていたのは、その変質者だったという事に気が付いた。だが、犯人は捕まらなかった。

 

 それから暫くして、仲の良かった近所のお姉さんから、うちの庭の前で男に襲われたという話を聞いた。彼女の話によると、仕事帰りで疲れ切って帰宅していたところ、うちの中庭の前を通った時に、いきなり庭の灌木の間から飛び出して来た男に抱き着かれたとのことだった。

 

 幸い、彼女が男ともみ合っている時に、うちで飼っていた小型犬のテスが、跳び出して来て男に向かって激しく吠えたので、男は逃げて行き、大事に至らずにすんだ。私の部屋は中庭に面していたので、その時彼女が大きな声を出して入れば、私が気付いたはずだが、怖くて、声が全く出なかったと言っていた。女の人は、そんなもんかもしれない。

 

 

 昔、私の空手の師匠である上原先生の道場がまだ、大濠にあった頃の話である。その頃は、今と違って、道場の周囲も暗い夜道が多かったそうだ。

 

 当時、道場に体重100圓廼手弐段の女性がいた。この女性は、道場組手では、かなり強く、相手が男でも自分より格下なら、「お前」呼ばわりするような豪傑女だった。

 

 彼女は、稽古が終わるといつも、夜遅い時間にも拘らず、わざと灯りのない野原を一人で歩いて帰っていた。たとえ男に襲われたとしても、撃退する自信があったのだろう。

 

 ある晩、いつものように、彼女が空手着を肩にかけて意気揚々と暗い野原を歩いていると、草むらから出て来た男に、いきなり後ろから

 

 「オイ!」

 

と言う声と共に、襟首を掴まれた。彼女は、その瞬間、

 

 「キャーー!」

 

と叫んで、その場にしゃがみ込んだ。彼女の思惑とは裏腹に、抵抗するどころか、全く無防備な醜態を曝してしまったのである。後ろから、彼女の襟首を掴んだのは、同じ道場の先輩だった。

 

 前々から、彼女の軽率な行動を苦々しく思っておられた上原先生が、先輩に指図して、やらせたことだった。それから、先輩と一緒に道場に戻った彼女は、上原先生から、コンコンとお説教を喰らったそうだ。生兵法は怪我の基である。

 

 それ以後、彼女が、人気のない暗い夜道を一人で歩くことは無くなった。

 

 

 女性が、男に襲われた時は、まず声を出すべきだが、最初の例のように、恐怖で声が出ないパターンがほとんどである。私が以前、拳法を教えていた女子高生も、「そういう場面になったら、怖くて声が出ないと思う。」と言っていた。

 

 では、声さえ出せれば、助けてもらえるのかというと、そうでもない。これは、学生時代に同級生の女の子から聞いた話だが、彼女が、夜、住宅街を歩いている時に若い男に襲われたので、

 

 「助けてー!」

 

と叫ぶと、すぐそばの家の庭にいたオバちゃんは、慌てて家の中に逃げたそうである。彼女は、

 

 「あの時は、人間、見たわ。」

 

と文句を言っていたが、そのオバちゃんも、怖かったんだと思う。無理もない。こういう場合は、

 

 「助けて!」

 

ではなく、

 

 「火事、火事よー!」

 

と叫ぶべきなのだ。住宅街や商店街で、そう叫べば、たいていの場合、人が表に出て来るからである。「助けて!」と叫んでも、人が家に逃げ込んだり、誰も出て来ないような場合は、そうすればいい。勿論、素直に「助けて!」と叫んで、助けてもらえる場合もある。その声を聴いた男性なり、女性なりが、腕に自信があって、正義感の強い人だったら、すぐに助けに駆けつけてくれるかもしれない。

 

 まあ、それも、場合によりけりだが、・・・・・・

 

 

 

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ヌミノースな世界 64  ― 犬

JUGEMテーマ:ノンフィクション

 

 小学校三年の時、高台にある友達の家に遊びに行った帰りに、間違って他人の家に入り込んでしまった事がある。この時の事は、今でもハッキリ覚えている。

 

 すぐに他人の家の敷地に入り込んでしまったことに気付いた私は、道に戻ろうとした。その時、ふいに横から犬が飛び出してきて、私の右膝に噛みついた。かなりの激痛が走ったので、犬は、相当強く噛んでいたと思われる。

 

 咄嗟に左足で犬を蹴り放そうとしたが、犬は片足立ちになった私を引き倒して、物凄い唸り声を発しながら、覆い被さって来た。明らかに私の喉か顔を噛もうとしていたので、必死で犬の首を抑えた。

 

 どのくらいその犬と格闘していたかは、覚えていない。ハッと気が付くと、慌ててその家から出て来た女の人が、犬を私から引き離してくれた。

 

 「僕、ダイジョブ?犬のうなり声が聞こえたから、出て来たんだけど、まさか僕みたいな子供に噛みついてたなんて。」

 

 「膝が、すごく痛いです。」

 

 「僕、どこの子?」

 

 「××から来ました。」

 

 「近くじゃない。今、タクシー呼んであげるから、それに乗って、すぐに帰りなさい。」

 

 「はい。」

 

 タクシーが来るまで、私は、膝を抑えて蹲っていた。あまりに痛かったので、その後何をその女性と話し、どうやってタクシーに乗り込んだかまでは覚えていない。気付くと、自宅の前にタクシーが停まっていた。運転手さんが、家にいた母に連絡したらしく、母が出て来た。ドア側に頭を向けて横になっている私を母が上から覗いて、

 

 「この子は、うちの子じゃない。」

 

と言って、すぐに私の視界から消えた。この時ほど、情けない思いをした事は無かった。顔が苦痛に歪んでいる上に、逆さまから私の顔を見たせいで、母は自分の息子の顔を認識できなかったのだ。母が見えなくなった後に、近所の女の子が、窓から私の顔を見て、

 

 「オバちゃん、この子、やっぱり龍一君よ。ひどく痛そう。」

 

と言って、母を連れ戻して来てくれた。今でも、彼女にはこの事を感謝している。それから、そのタクシーに保険証と財布を手にした母が乗り込んで来て、私を外科に連れて行った。5針ほど縫われて、狂犬病の予防注射を打たれたような気がする。

 

 「犬は、人間の友」と言う言葉があるが、犬が一旦、人に敵意を向け始めると、これほど恐ろしいものはない。犬の遺伝子中には、狼の野性が眠っているのだ。大人になって、空手や拳法を身に着けて以降、犬と止むを得ず戦わねばならない時は、どんなに小さな犬でも、決して油断せず、犬の急所を狙うようになった。舐めてたら、ヒドイ目に遭うと言う事をこの時の経験が教えてくれたからである。

 

 

 

 それから、5年後のことである。弟が、新聞配達を始めた。

 

 ある朝、弟はいつものように自転車に乗って、新聞販売店に向かった。弟の後ろには、うちで飼っていた小型犬の「テス」がくっついていた。テスは、毎朝、弟の新聞配達の伴走をするのが日課のようになっていたのだ。

 

 我が家と販売店のちょうど中間点辺りに大きな十字路があった。弟が、その十字路に差し掛かったとき、東側から野犬の集団がやって来た。4、5匹の犬ではない。実に、50匹ほどの野犬の群れだった。

 

 その中で、一目でボス犬だと分かる大柄な犬が、テスを見つけて、

 

 「ウウ―――」

 

と唸り始めた。弟が、「ヤバい!」と思った次の瞬間、犬たちは、

 

 「ワン、ワン、ワン、ワン!」

 

と吠えながら、二人に迫って来た。弟とテスは、南側にある販売店に向かって、一目散に逃げ始めた。犬の軍団は、左に舵を切って、追い駆けて来る。

 

 犬たちの声は、もはや、「ワン、ワン」という鳴き声ではなく、

 

 「ウォーーーー!

 

と言う地鳴りのような音となって、後ろから迫って来る。犬たちに追い駆けられながらも、弟が振り向くと、テスが必死の形相で走っている。「可哀想に」と思ったが、何もできない。ともかく犬たちを振り切って、販売所に駆け込むしかない。いつもは、すぐに着く販売店が、その日に限って、えらく遠く感じる。

 

 弟は死に物狂いでペダルを漕ぎ続け、やっとの思いで、まだ誰も来ていない販売店に逃げ込んだ。店の引き戸を締めた途端、

 

 「ガリ、ガリ、ガリ」

 

と言うテスが前足の爪で引き戸を掻きむしる音が、聞こえた。すぐに戸を開けて、テスを中に入れて、閉めた。

 

 犬たちは、暫く、販売店の外をうろついていたが、やがていなくなった。

 

 


ヌミノースな世界 63  ― 針金ハンガー 2

JUGEMテーマ:ノンフィクション

 

 店長が再入院してから、私の髪を切ってくれていた女の子にその店の霊的現象について尋ねてみた。

 

 「店長から聞いたんだけど、この店、霊的な現象が起きるらしいね。でも、店内には何も感じないけど・・・・・・」

 

 「ここは何もありません。ヒドイのは、私たちスタッフの控室なんですよ。」

 

 「控室?」

 

 「ええ、レジの向かいの部屋です。」

 

 「どんなことがあるの?」

 

 「よく物が動くんですよ。ある場所にちゃんと置いたはずの物が、後から見たら少し位置がずれてたりするんです。」

 

 「へーー、オレ、少し霊感があるから、後で見てもいい?」

 

 「いいですよ。」

 

 というわけで、散髪を終え、お金を払った後で、控室の入り口に立った。まず、掌を部屋の中に向かって突き出した。すると、ヒンヤリとした冷気が掌に押し寄せて来た。かなり、スゴイ。

 

 明らかに、何か邪悪なモノがいるようだ。ここで止めて置けばよかったのに、私は中に入ってしまった。中に一歩足を踏み入れた途端に、左胸の真中辺りを槍で貫かれたような鋭い痛みが走ったので、私は思わず後ずさった。

 

 その日は、そのまま帰ったが、一向に痛みが治まらなかったので、当時空手を教えていた後輩に整体をしてもらって、やっと痛みを取ることが出来た。もっとも、私に整体をしてくれた後輩の体にも少し悪影響が出てしまったが・・・・・・

 

 それから、三日ほど経った頃のことである。自転車に乗って、ファミレスの横を通っていると、ファミレスの駐車場から突然急発進して来た乗用車に横からぶつけられた。この時は、右腰に軽い打撲を負った程度で済んだ。

 

 よく考えたら、店長が気胸を患った時に空いた穴は左側の肺だったし、また彼が交通事故で電柱にぶつかった時も、右側からぶつかって右股関節を脱臼していたので、程度の差こそあれ、私も店長と同じ目に遭ったことになる。

 

 

 店長は、約半年の入院生活の後、無事仕事に復帰した。髪を切ってもらっていた時に、私も同じような目に遭った事を話すと、店長が仰天するような話を始めた。

 

 「実は、僕が入院する前にかなりショッキングな事があったんですよ。」

 

 「ショッキングな事ですか?」

 

 「ええ。クリーニング屋がくれる針金製のハンガーがあるでしょ。あれを部屋にいくつか掛けてるんですが、そのうちの一つが、急に水平に浮いて、真ん中の所から、誰かが引っ張っているみたいに伸びて菱形になったんですよ。ここにいたみんなが、それを見てます。」

 

 かなりの強烈なポルターガイスト現象である。そこまで、物理的な力がかかっているのなら、部屋になんか入るんじゃなかったと随分後悔した。

 

 その後、店長は知り合いのツテで、本物の霊能力者に依頼して店を見てもらった。その霊能力者が言うには、一階の店舗の下にある下水道の水が滞っているために、地下から二階まで動物霊が通る霊道が出来てしまっているとのことだった。取り敢えず、応急処置として霊道をふさいだが、下水道を何とかしない限り根本的解決にはならないとも言っていたそうある。だが、他店舗のことなので、店長にはそれ以上の事は何もできなかった。

 

 お世話になった店長やスタッフには、誠に申し訳ないとは思ったが、この事件以降、この美容院からは自然に足が遠のいてしまった。

 

 

 

※この記事のURL: http://koshiki.jugem.jp/?eid=2939

 

 

 


ヌミノースな世界 62  ― 針金ハンガー 1

JUGEMテーマ:ノンフィクション

 

 これは、以前、私が髪を切りに行っていた美容院での出来事である。

 

 ある日、髪を切りに行くと、店長がいない。

 

 「今日、店長はいないんですか?」

 

 「店長は、入院しました。」

 

 「エッ?入院?店長、どっか悪いんですか?」

 

 「なんか、肺に穴が開いたらしいですよ。」

 

 「肺に穴?」

 

 「ええ、左の肺に穴が開いたそうです。」

 

 肺に穴が開くというのは、恐らく気胸の事だろう。それから、暫くして店長は退院して来た。店長が退院して来てから、髪を切りに行くと、店長が妙な話をし始めた。

 

 「以前、うちに○○っていう美容師がいたでしょう。覚えてますか?」

 

 「ええ、覚えてます。あの髪の長い男の人でしょう?」

 

 「そうです。あの人、ちょっと技術的な問題があって、辞めてもらったんですが、後から電話で連絡して来て、妙な事をいったんですよね。」

 

 「妙な事?」

 

 「辞めた後に、あの人が、霊感のあるオバアチャンの家に遊びに行ったら、なんにも言ってないのに、オバアチャンが、『あんた、仕事辞めたろ?その仕事場、二階にあったやろ?そこは、辞めて良かったんだよ。変なモンがいるからね。』って言ったらしいですよ。」

 

 「ええ、それホントですか?」

 

 「ホントです。」

 

 「つまり、ここに何か霊的なモノがいるって言うことでしょう?」

 

 「そうです。」

 

 「なんか、心当たりがあるんですか?」

 

 「実は、うちの女の子が、外に営業に行ってた時に、店に電話したらしいですけど、その時刻に電話を取ったら、受話器の向こうからは、『ブツ、ブツッ、ブツッ』っていう雑音が聞こえるだけで、人の声は全く聞こえなかったんですよ。で、変だなって思って電話を切ったら、その女の子が外から帰って来て、『どうして、電話に出ないんですか?』って言って怒ったんですね。その時間にかかって来た電話は、それしかなかったから、間違いなく彼女がかけた電話だったんですけど。」

 

 その話を聞いてから半年ほど経ったころ、店長は、再び災難に見舞われることになる。今度は、車の運転中に運転席側から電柱に出来突して重傷を負い、再び入院したのだ。(つづく)

 

 

 

※この記事のURL:http://koshiki.jugem.jp/?eid=2938


ヌミノースな世界 61  ― 霊夢

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 王媛媛がトラックの地縛霊に憑依されてから三か月後のことである。彼女は、再び霊障を患う事になる。だが、今回はすぐに霊媒師に連絡を取り指示を仰いだので、軽症で済んだ。(「ヌミノースな世界 60  ― 紙銭」(http://koshiki.jugem.jp/?eid=2935)

 

 この事件が起きる前日のことである。媛媛の友人の岳麗娜が、奇妙な夢を見ていた。

 

 

 麗娜が歩いていると、急に体が重くなる。振り向くと、自分の腰に顔だけの男の幽霊が張り付いていた。重くて、どんなに強く引っ張っても離れない。その時、幽霊が笑い始める。

 

 「お前の体の中に、俺の欲しい物がある。」

 

 「私の体の中に、何があるの?」

 

 幽霊は答えない。その時、王媛媛が向こうから歩いて来た。幽霊は、媛媛に

 

 「お前の体の中にあるモノの方が、もっといい。」

 

と言って、彼女の肩に憑りつく。媛媛がどんなに引っ張っても、幽霊は彼女の肩から離れない。二人して困っていると、白髪白髭の仙人が歩いて来る。仙人は、懐から鉄の輪っかを取り出して、媛媛の頭の上にかざす。すると、幽霊は鉄の玉になって、輪っかの中央に吸い込まれ、そこに浮いたままになる。

 

 仙人は、麗娜に、

 

 「今、幽霊は、輪っかの中にいる。これをどうするかは、あなたが決めなさい。」

 

と言う。麗娜は、幽霊に感謝してもらう事を期待して、逃がしてやることにする。麗娜が、鉄球を指で弾くと鉄球は下に落ちて、転がり始める。鉄球は、転がりながら、

 

 「お前が、俺を追い払っても、俺は必ず戻って来る。」

 

と捨て台詞を残して、去って行く。

 

 

 その翌日、麗娜がこの夢の話を霊媒体質を持つ媛媛にしたせいで、霊が媛媛に乗り移ってしまったのである。麗娜が、夢の中で妙な仏心を出さずに、その輪っかをそのまま捨てていれば、媛媛が霊障を患う事も無かったと思われる。

 

 夢の中で、この幽霊が、媛媛に、

 

 「お前の体の中にあるモノの方が、もっといい。」

 

と言ったのは、霊媒体質の媛媛の体の方が、寄生しやすいという意味だったのだろう。

 

 

 

※この記事のURL: http://koshiki.jugem.jp/?eid=2936

 


ヌミノースな世界 60  ― 紙銭

JUGEMテーマ:ノンフィクション

 

 王媛媛は、女子高生である。中国の高校生活は、かなり厳しい。朝自習が6時から始まり、夜自習は10時45分まである。他人に縛られる事が嫌いな媛媛は、三年生の春に、規則が厳しい高校の寮を出て、女友達と三人でアパート住まいを始めた。

 

 外で生活するようになってから、高校での厳し過ぎる規則への反動で、三人でよく夜遊びをするようになった。毎晩、夜中の三時ころまでバーに行ってタバコを吸い酒を飲んで騒いでいた。

 

 ある晩、いつものように外で遊んで帰宅した。アパートの前には、媛媛たちが引っ越して来たときから白いトラックが一台停まっていて、そのトラックの横を通る時、いつもみんなで中を覗くのが習慣のようになっていた。

 

 その時も、みんなで中を覗いた。だが、この時は、いつもと違っていた。トラックの運転席に知らない男が座っていて、憎悪に満ちた顔で媛媛を睨んでいたのだ。その事を二人に告げても、他の二人は、何も見えないと言う。

 

 それから、部屋に帰って床に就いた。翌朝起きると、媛媛の右目の下にピーナッツ大の吹き出物が出来ていて、発熱が始まった。最初は、それほど熱は高くなかったが、段々熱が上がり始め、下痢や嘔吐が始まった。食べた物を全て吐いた後も、胃液を吐き始めた。

 

 熱を下げるために、白酒(パイチュウ)をハンカチに浸して、額・脇の下・足の裏に貼ったが、熱は下がらない。その日は、学校を休んで、両親に連絡した。親が来て、すぐに彼女を病院に連れて行ってくれた。病院で治療を受けて、自宅に戻り、病院でもらった薬を服用し休養を取ったが、症状の改善は見られず、熱が断続的に9日間も続いた。

 

 解熱するために、漢方薬を買って、家で処方し服用したが、やはり治療効果は全く見られず、逆に激しく嘔吐する始末である。

 

 媛媛の症状を見て、彼女の祖母が、

 

 「これは、普通の病気じゃない。媛媛、お前、熱が出る前に何か変わった物を見たり、変な事を経験したりしなかったかい?」

 

と媛媛に尋ねたので、彼女は、トラックの運転席に座っていた男が自分にだけ見えた話を祖母にした。祖母は、

 

 「それは、霊障じゃ。」

 

と言って、すぐに霊現象に詳しい親戚に電話した。その親戚から霊媒師を紹介してもらい、指示を仰いだ。霊媒師は、まず寺に行って、符を買い、それを媛媛の額に貼り、次に紙銭を北の方角に向かって焼くようにと指示した。なお紙銭を焼いた人は、決して後ろを振り返らずに、その場を立ち去る様にとも言われた。

 

 霊媒師の指示通りにすると、媛媛の体調はすぐに回復し始め、彼女は、祖母の顔を見て、

 

 「お祖母ちゃん、お腹空いた。」

 

と久しぶりに空腹を訴えた。翌朝、彼女は、真っ黒い痰を四つ吐き出した。その痰は、霊障によって肉体に溜まっていた毒素である。その痰を吐いた翌々日、彼女は完全な健康体に戻り、学業に復帰した。

 

 なお、その霊媒師の話によると、媛媛の前頭骨と頭頂骨の間の裂け目が開いているので、彼女は霊的なモノが見えやすい体質になってしまったと言う事だった。

 

 

 

※この記事のURL: http://koshiki.jugem.jp/?eid=2935

 

 

 


ヌミノースな世界 59  ― 墓地

JUGEMテーマ:ノンフィクション

 

 小学校4年の夏休みに、弟や近所の子供たちと探検ゴッコに出かけた。その時のリーダー格は、私より一つ上の「ケンジ兄ちゃん」だった。

 

 このケンジ兄ちゃんは、優しい時は優しいのだが、ときどき私に意地悪をするので、私は、いつか仕返しをしてやろうと虎視眈々とその機会を待っていた。

 

 この日、私たちは、近所の小高い丘の上にある林に出かけた。そこは、普段、あまり人が出入りしていない場所で、地元に住んでいた私たちも、そこに入って行くのは、その日が初めてだった。

 

 中に入って驚いたのは、その林の中が墓地だったことである。そんなところに墓があるとは、誰も予想していなかった。怖いもの知らずな年頃だった私たちは、その墓地を歩き回った。

 

 墓石の中には、かなり大きな物がいくつかあった。カクレンボをするには、絶好の場所だったので、私たちは鬼を決め、カクレンボを始めた。

 

 ところが、カクレンボを始めてすぐに、ケンジ兄ちゃんが、

 

 「あいた!」

 

と叫んだ。何事かと思い、みんなカクレンボを止めて、隠れている場所から出て来た。兄ちゃんは、右手で頭を押さえている。

 

 「ケンジ兄ちゃん、どうしたと?」

 

 「なんか、墓石の上から落ちて来た。」

 

 「アッ!」「あっ!」「アッ!」

 

 ケンジ兄ちゃんの足元に落ちていたのは、なんと、真っ白い人間の頭蓋骨だった。シメタ!今がチャンスだ。仕返しをするなら、今しかない。

 

 「それ、マズイよ。人間の頭蓋骨が頭に当たったら、二週間で死ぬって話だよ。」

 

 「それ、ホント?」

 

 「ウン、うそやないよ。実際、死んだ人がおるらしいよ。」

 

 「龍一、俺、まだ死にとうない。どうすれば、いいとかいな?」

 

 「僕の言う通りにして。まず、その頭蓋骨を墓石の上に戻して。」

 

 「分かった。戻すよ。」

 

 そう言って、ケンジ兄ちゃんは、恐々とシャレコウベを拾って、墓石の上に戻した。

 

 「で、それから、どうすると?」

 

 私は、吹き出しそうになるのを懸命に堪えながら、真面目ぶった顔と厳かな口調で、

 

 「それから、その頭蓋骨に向かって手を合わせて、『申し訳ない事をしました。どうぞ私を許して下さい。』って言ってお祈りして。」

 

 ケンジ兄ちゃんは、真剣な顔で合掌して、

 

 「申し訳ない事をしました。どうぞ、私を許して下さい。」

 

と祈った。祈りを終えて、兄ちゃんは私に縋るような表情で、

 

 「龍一、これでいいか?」

 

と尋ねた。まあ、これくらいで許しといてやるか。

 

  「うん、それでいいよ。もう大丈夫、安心して。」

 

 「助けてくれて、ありがとう。」

 

 「いいよ、いいよ、気にせんで。僕たち、トモダチやない。」

 

 思いっきり笑いたかったが、家に帰るまでグッと堪えた。俺って、すごく悪いヤツ? 

 

 「髑髏の呪い」にかかって病気になる事も、死ぬこともなく、ケンジ兄ちゃんは、今でも元気で生きている。

 

 

 

 それにしても、あんなところに人間の頭蓋骨があったのは、明らかに異常である。その時は、まだ何も分からない子供だったので、その異常性には全く気付かなかったし、警察に届けようと言う考えも全く起こらなかった。その後、そこで人間の頭蓋骨が発見されたという話も聞かなかった。

 

 もしかしたら、このシリーズの「蛇行」(http://koshiki.jugem.jp/?eid=2889)のようなパターンだったのか、或いはバラバラ殺人の犯人がそこに頭部だけを置いたのかもしれない。

 

 ネットで調べたところ、日本でも昭和初期頃まで、土葬が行われていたそうである。誰かが、イタズラで土葬されていた遺体の頭部を掘り出して、墓石の上に置いたとも考えられる。

 

 

 

※この記事の: http://koshiki.jugem.jp/?eid=2929

 

 

 


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