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ヌミノースな世界 55  ― エアコン

JUGEMテーマ:ノンフィクション

 

 私が、某外資系企業の寮で管理人として働いていた時のことである。ある晩、管理人室のインターフォンが鳴った。受話器を取ると、中国系アメリカ人の女の子だった。

 

 「部屋にゴキブリがいるので、何とかして下さい。」

 

 「分かった。ちょっと待ってて。」

 

 殺虫剤を持って彼女の部屋に行くと、部屋の中には彼女の他に韓国系カナダ人の女の子が二人いた。

 

 「殺虫剤、持って来たよ。ゴキブリは、どこかな?」

 

 「エアコンの中にいます。」

 

 「エアコンの中?なんで、またそんなとこに入ったかな?」

 

 「壁を這っていたので、新聞紙を丸めて叩こうとしたら、エアコンの中に逃げたんです。」

 

 「なるほど。ちょっと待って。」

 

 私は、殺虫スプレイに付属していた細い管をノズルに装着した。幸い、暑くも寒くもない時期だったので、エアコンは作動していなかった。私は、ノズルをエアコンの中に突っ込み、殺虫剤を中に噴霧した。

 

 すると、中からポトッと一匹のゴキブリが下に落ちて来て、部屋の中を走り回り始めた。女の子たちは、「キャー!」と叫び声を上げながら、ゴキブリから逃げ回る。私は、中国語で、

 

 「杀死你!杀死你!(死ね!死ね!)」

 

と言いながら、ゴキブリを追いかけて、ゴキブリに殺虫剤を噴霧する。部屋主の女の子は、

 

 「杀死它!杀死它!(殺して!殺して!)」

 

と叫ぶ。私の執拗な殺虫剤攻撃で、ゴキブリはついに動かなくなった。私は、部屋にあったティシュボックスからティッシュを一枚引き抜いて、ゴキブリの死骸をそれで包んだ。

 

 「死了吗?(死んだの?)」

 

 「死了。放心吧。(死んだよ。安心して。)」

 

 その瞬間、彼女は、胸の前で両手指を交互に組んで、天を仰ぎ、日本語で、

 

 「神様、アリガトウございます。」

 

と言った。壁にイエスの絵が飾ってあり、本棚の上に十字架があった。彼女は敬虔なクリスチャンだったのだ。私は、

 

 「礼を言うなら、まず俺に言えよ。」

 

と少し不満だったが、何も言わなかった。日本語で感謝の祈りを捧げていたのは、来日後に日本の教会で洗礼を受けたからかもしれない。彼女が、私に礼を言いに来たのは、それから一週間後のことだった。

 

 「汝殺すなかれ。」と言うのは、キリスト教の重要な教えの一つだが、ゴキブリは例外のようだ。

 

 

 

※この記事のURL: http://koshiki.jugem.jp/?eid=2907


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  • 2020.04.01 Wednesday
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